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パリの旅 第四回 【2008.10】

グループホーム第1 西川 光子
 

 ”丘の上には成功がある。・・・モンマルトルの丘は画家たちの夢のゆりかご”と言われるところだ。石畳の階段を登っていくと画家たちが集まっているテアトル広場についた。 道路はキャンバスに向かう画家でいっぱいで、制作販売もしている。若い女性からかなり年配の男性まで多様で、その光景自体が絵になる。カラフルなテントが並び、あざやかな色のカフェテラス、レストランがあって、観光客で賑わう華やかさにウキウキさせられる。
 お店もおしゃれで、つい入りたくなる。ところが、板チョコ1枚800円という値段に驚くが、それでも買ってしまいたくなるおしゃれなパッケージにチョコも身を包んでいる。
 ただ、30年前はもっと静かだった。今回はみやげ店もずらりと並んで、当時と全く違った感じはあった。カフェテラスで一休みする。すぐそばで絵筆を握っている画家の姿を見ながらのコーヒータイムはひと味違う雰囲気を感じられたのだった。
 丘を登り詰めると、サクレクール寺院が堂々と姿を現す。その変わらぬ姿は30年前に私をタイムスリップさせる。あの日、一人になって心細い気持ちで広い階段を登ったことが蘇えってくる。階段の途中で休んでいると通りがかりの、日本人の男性に”日本人ですか”と声をかけられた。一人強がりながらも本音は心細く、当時の異国で、日本人に声をかけられただけのことが不思議に、安らぐ感じがあった。


 そんなこの場所での過去の情景を思い浮かべながら聖堂の中に入った。教会の重い扉を押したとたん。なんと!! やわらかなパイプオルガンの音色と賛美歌が私たちを迎えてくれた。その響きにすっかり心を奪われながら、前の席に進み腰を下ろした。ミサが行われている最中だったのだ。フランス語の響きが意味はわからないが心に染みいってくる。
 巨大な天井は、一面、キリストが幼い子どもに手をさしのべている宗教画が描かれており、私はいつの間にかその物語りの世界に包まれていた。
 30年前、一人残されて複雑な心境でこの場にたたずんでいた自分と、30年過ぎて夫婦でここに来られて、至福に満たされ感動している今の自分を感じながら、こんなに感動するものかと自分で驚いているのだった。ステンドグラスからこぼれる光が神々しく、しばし神秘的な時間に浸る。無意識に身をまかせ、イメージの世界にひたった。今の時も、30年という時も、時はどんどん流れていながら、どこか不動の自分を感じたのだった。


 帰路、地下鉄の駅で回数券を買うあいだ、通りゆく人々をあくことなく眺めていた。改札口は無人で切符を入れると回転棒が動き通過するしくみになっている。その回転棒の下に赤シャツの太った男性が寝っ転がってもがいていた。修理をしているいるのかと思ったが、道具は持っていない。そのうちギューギューと動いて回転棒をくぐり抜けた。無賃乗車目的で改札を通り抜けたのだ。その場面を見ていた駅員は何もとがめず通り過ぎた。 赤シャツの太った男は私たちの向かいのホームで平然と電車を待っていた。その男と別々の方向でどこかほっとしながら、電車に乗り込み空いている席に座った。
 われわれの座席の向かいには黒人の男の子と母親が座っていた。その子は2〜3才くらいで、指をしゃぶっていた。私はその子の様子になぜか惹かれた。そのお話は次回で…。
 


 

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