私は人に会っているとき、無意識にその人の手を見ている。手にその人の生活感や、性格を感じる。オペラ座へ向かう地下鉄で私達の向かいの席に黒人の男の子と母親が座っていた。その子は真っ黒な小さな手で、親指をキュッと口に含ませ、私と目が合うと大きな瞳をクリクリさせる。指先は色が薄く、爪のまわりだけは白く目立つ。その微妙な黒と白の境に私はひきつけられた。
その子とアイコンタクトをとっているうちに、私の手は動いていた。私はいないいないバー”をしていた。指をしゃぶっていたその子の親指が口からサッと離れ、両手で自分の目をおおった。その子は私のまねをしてくれた。楽しくなった私は口に、耳に、鼻にと手を当てると、どの仕草もまねてくる。私たちは言葉無しで遊んでいた。真っ白の歯が愛らしく目立った。 大きなイアリングをつけたお母さんもその空気に入り込んできた。たわいもないが心に残ったシーンだった。
宿は前日の郊外のペンション風のところから、オペラ座に歩いていける街の中心部のホテルへ移った。このホテルには中庭があり、そこで食事がとれる。中庭での食事は開放的でなかなかの雰囲気を楽しめた。
ここでは小学校2年生のロシア人の女の子と出会った。夏休みを利用し、親子3人での旅行中とのこと。女の子は手に菓子袋を持ち、食事したくないとすねているようだった。あまりの可愛らしさに“一緒に写真とって”とお願いをした。最初はモジモジして体に力が入っていたが、だんだんと力が抜け抱っこさせてくれた。ギューと抱きしめ頬ずりしたら若い両親がニコニコしていた。
30年前は置いてけぼりを食らって不安の中、子供にお金を取られ、窮地におとしいれられたパリだが、今回は黒人の子、教会の前で写生をしている子、ホテルの子たちに大きなプレゼントをもらったような気がした。 |