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パリの旅 第五回 【2008.11】

グループホーム第1 西川 光子
 

 私は人に会っているとき、無意識にその人の手を見ている。手にその人の生活感や、性格を感じる。オペラ座へ向かう地下鉄で私達の向かいの席に黒人の男の子と母親が座っていた。その子は真っ黒な小さな手で、親指をキュッと口に含ませ、私と目が合うと大きな瞳をクリクリさせる。指先は色が薄く、爪のまわりだけは白く目立つ。その微妙な黒と白の境に私はひきつけられた。
 その子とアイコンタクトをとっているうちに、私の手は動いていた。私はいないいないバー”をしていた。指をしゃぶっていたその子の親指が口からサッと離れ、両手で自分の目をおおった。その子は私のまねをしてくれた。楽しくなった私は口に、耳に、鼻にと手を当てると、どの仕草もまねてくる。私たちは言葉無しで遊んでいた。真っ白の歯が愛らしく目立った。 大きなイアリングをつけたお母さんもその空気に入り込んできた。たわいもないが心に残ったシーンだった。
 宿は前日の郊外のペンション風のところから、オペラ座に歩いていける街の中心部のホテルへ移った。このホテルには中庭があり、そこで食事がとれる。中庭での食事は開放的でなかなかの雰囲気を楽しめた。
 ここでは小学校2年生のロシア人の女の子と出会った。夏休みを利用し、親子3人での旅行中とのこと。女の子は手に菓子袋を持ち、食事したくないとすねているようだった。あまりの可愛らしさに“一緒に写真とって”とお願いをした。最初はモジモジして体に力が入っていたが、だんだんと力が抜け抱っこさせてくれた。ギューと抱きしめ頬ずりしたら若い両親がニコニコしていた。
 30年前は置いてけぼりを食らって不安の中、子供にお金を取られ、窮地におとしいれられたパリだが、今回は黒人の子、教会の前で写生をしている子、ホテルの子たちに大きなプレゼントをもらったような気がした。


 

 オペラ座は正面大理石の大階段と緑の屋根、30年前と変わることのないこの華麗な姿のままだった。今回は是非、舞台を見ようと中に入った。席を案内する人が扉を開けた。そこはなんと個室で、深紅の小部屋になっていて、コートなど掛けるようになっていた。この小部屋に観客席が並んでいる。私たちはこの部屋の最前列に座った。赤と金に彩られた5層の観客席、天井はシャガールの手になる“夢の花束”の絵が広がり息をのむほどの豪華さだった。
 ステージは“モダンバレー”で、現実と異界を往復し、その後未来が開けるといったストーリーで 会場の豪華さに比べて、とてもシンプルなものに感じた。ラストで観客の鳴りやまない情熱的拍手が体に響いた。 外に出ると、夕食を予定していた店がすでに閉まっていて、近くの日本人経営のレストランに入った。メニュ−はわかりやすく日本語での注文はとても気楽だった。だが値段の高いのにはビックリ。コース料理は頼めず、一品料理にした。ステーキ、エビそれぞれ1皿5000円なのだ。コーラ1本1000円。「お水どうしますか?」と聞かれ、日本人だし無料だとたかをくくって「お願いします」と言ったが、なんと水は800円だった。席は5テーブル程度で、お客さんは全員日本人だった。
 会計をすませ、出口で子供を連れた若い夫婦と一緒になったので、普段の外食にレストランを使っているのか聞いてみた。その人は報道関係の仕事をしていてパリ在住とのこと。“友人がきた時とかよくきます。ちょっと高いけど味はいいですね”とのこと。
 オペラ座近くのコーヒーが1500円というのにもビックリしたが、こうしたお店で日常的に食事している日本人はどんな人種なんだろうと考えてしまった。
 反動でパリ庶民の生活に触れたくなり、スーパーに入った。フルーツ、カット野菜、サラダ、ハム類など、レストランとは比べ物にならない安値。つい買い込んで、甘酸っぱいピクルスのおいしさに元気を取り戻した。 さて、次回はいよいよ最終回。
 

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