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キリさんとのドライブ【2012.07】
グループホーム第1 鈴木 美貴子

  ・朝方の こころに残る 居心地を
うなずきながら 味わうあなた
 ・居心地が いいから居れる 場所だから
あなたがいれば 私も居れる
  ・私だけ ひとりでいても 落ち着かず
  私といてね あなたといるよ
 最近のキリさん(仮名)は、どこに行くというわけでもなく、車に乗ってその空間で過ごしたいという感じがある。車は今のキリさんにとってなぜか落ち着ける、自分の守りの場所なのかもしれない。
 ある日、朝食後にキリさんが外に出た。キリさんはこの日も車に乗りたい感じがあったが、どの車も鍵がかかっていて乗れず・・・開かなくて無理だねというような表情で私をみてうなずき、仕方なく歩いてハウスの方に向かった。ハウス前には理事長の車が止まっていた。ハウスに向かうのか車に行くのか・・・きっと車なんだろうな、車はきっとカギはかかっていないんだろうなと私は思いながら、キリさんと一緒に歩いた。
 キリさんはやはり車に向かった。後部座席のドアを開けてキリさんはゆっくりと車に乗る。この日は朝から暑い日だった。キリさんが「入って」と私も誘う。私も一緒にキリさんの守りの空間に入れてもらえた。暑かったので窓を開ける。車に乗っているとワーカーさんやWSのスタッフが声をかけてくれる。声をかけてくれた人に「入って」と優しく声をかけるキリさん。車の中では私とキリさんは特に会話するわけではなくポカンと過ごしている。車においてあった本をキリさんがめくり私に見せるので、うなずくとキリさんもうなずいている。そうこうしていると、ハウスの用事が終わった理事長が帰ってきた。来るなり「よし行くぞ」と乗り込んでドライブモード。キリさんも「みんなで行きましょう」と言って出かけることになった。
  「どこいくの」と言うと「10時だから銀河モール開いてるだ ろ」と理事長。10分ぐらいで銀河モールに到着。キリさんは車から降りない時もあるのでどうなのかなと思ったが、理事長が「ついたよ」とドアを開けるとすんなりと降りて、理事長の後をついてお店の中へ向かう。入り口を入ってすぐの所に赤ちゃん連れの若いお母さんたちが4人おしゃべりをしていた。キリさんは子供好きなので「あら、かわいいね」とその集団にはまってしまった。後ろをふり返った理事長はキリさんがいないのに気がついて慌てて戻ってくる。お母さん達は、にこにこ顔でいきなり乱入して来たキリさんに戸惑ったのか、どう受け止めて良いのか解らずかまわずおしゃべりを続けていた。戻ってきた理事長が間に入って、キリさんの手をとって、奥のテーブルに誘って座った。
  フードコートの店は11時まで開かないとのことだったので、理事長は飲み物を買いにスーパーに行った。その間、私とキリさんは向かい合わせに座って、特に会話はなかったが、気まずい雰囲気にはならず、落ち着いて過ごしていた。理事長が帰ってくるとにっこりして、私をみてうなずくキリさん。理事長が買ってきてくれたモナカアイスを3人で食べる。最近なかなか食べないことが多いキリさんだが、アイスに口を大きくあけてかぶりつき、おいしそうに食べながら、「いいね〜」と、ひとこと。キリさんの「いいね」は満足している時に出る言葉。
 赤ちゃん連れのお母さんたちと私たちしかいない広いフードコートは静かな空間だった。キリさんも落ち着いて立ち上がることもなく過ごした。 20分も過ごして、さあ帰ろうかとなった。キリさんは理事長と手をつないで立ち上がり車に向かう。途中、子ども連れの若奥様のグループに乱入しないように、理事長がエスコートする。
  車に乗ってからも特に会話はなかった。窓から入ってくる風が気持ちよく、隣に座っているキリさんを見るとやんわりした表情でうつむいて目をつぶっている。キリさんも気持ちよさそうだった。何かを話して面白かったとか、なにか食べたからおいしくてよかったとかではなく、ここにこうして居る心地良さがあった。
 グループホームの玄関先に着いて、理事長がドアを開けると、キリさんはすんなりと車から降りた。理事長が差し出した手はつながず、後から車を降りた私を方をみてうなずき、キリさんが先に歩いてグループホームの玄関の戸を開けて入った。
  朝のひととき、さりげない時間と空間で心地よい時間を過ごせた。キリさんも落ち着いて過ごせた時間だったと思う。
 
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