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99歳と結婚式へ【2012.07】
グループホーム第2 佐々木 詩穂美

  4月末、豊さん(仮名)の娘さんが来里され、豊さんの耳元で「今度、豊さんの孫が結婚することになったよ。豊さんの初孫だった孫!分かる!?」と話しかけられた。「うん、分かるー」とはっきり答えるのはグループホームでも第2番目の大長寿、99歳の豊さんだ。
 今年の2月、体調を崩して入院した豊さんだったが、3月に退院し、めでたく99歳の誕生日を銀河の里で迎え盛大に祝った。入院していた時ははたして帰ってこれるものかとまで家族さんも心配されていたが、それが嘘だったかのように、特に99歳の誕生日以降は前よりも元気なくらいに毎日元気で完全復活している!!
 その豊さんの孫さんの結婚式があるということで、娘さんがどんなものか報告がてら様子を見に来られたのだった。「5月5日に花巻神社でお祝いすることになったんですよ。家族が揃うので本当は豊さんも一緒にって思いますけどね‥でも連れてけば大変でしょー、手がかかるし‥」というお話しだった。
  こうした相談を受けると、戸惑ってしまって、グルグルして何を話して良いかよく解らなくなるのがいつもの私なのだが、このときは何かがピシッときた。「んじゃ、こっちのスタッフがついて一緒に行けば大丈夫ですか?」と私の口からすぐ出てきた。手順として、5月の予定表をみて、ゴールデンウイークの祝日は昼食作りがあったりして、スタッフ1人抜けたら勤務体制が難しいなー‥とゴチャゴチャ考える必要もある。でもこのときは、1回しかないこの日を大事にするしかないという気持ちが最優先で、「なんとしても参加したい」と動じなかった。今は、それを支えてくれるチームもある!相談さえ必要のないチームの後押しが私にとっては大きい。
  神社で孫さんの結婚式に99歳の豊さんが参加する。こんな凄いこと2度とない。豊さんの退院以降の復活はこの為だったのかもしれない!と私には思えた。娘さんは申し訳なさそうに「でも迷惑かけるし、両家が集まる結婚式だからね‥参加してもいいか、あちらのご両親にも相談してみるね。もし参加できるようであればまたすぐ電話するし、ダメだったら電話しませんから」と言って帰って行かれた。娘さんも豊さんに参加してもらいたくてしかたないのだ。それを家族だけでは難しいから、里のスタッフが支えるかどうかだった。許されるなら私だって絶対に豊さんと参加したい。認知症だからおかしなことを言うかも知れないとか、変に思われるかも知れないという意識が入らなければいいなと願った。
 それから何日間か電話がくるのを心待ちにしていた。ところがなかなか電話はこなかった。半分あきらめていた頃、「参加してもいいことになったので連れてきてもらえますか?」と娘さんから連絡が入りスタッフみんなで喜んだ。 それから豊さんに「5月5日は花巻神社で孫さんの結婚式だよ」とスタッフそれぞれが毎日のように声をかけた。豊さんは「分かったー、5月5日いい日だな。大丈夫だー」と言って応えてくれて、良い感じだった。
5月4日の前日は、スタッフ全員が意識していたせいか、豊さんにその緊張が伝わったらしく、豊さんは朝から気合が入って今日が結婚式だと思いこんでいたるようだった。あまりに気合いが入っているので、「もしかして豊さん1日早く間違えてない?」とスタッフで話していると、やっぱり「あー、間違えた〜」と豊さんは自分で1日早く間違えたことに気付いた。本人もスタッフもかなりの気持ちの入れようだった。
  いよいよ結婚式当日。数日続いていた雨はやんでいて、豊さんが予報した通り天気にも恵まれた。前もって娘さんと孫さんが届けてくれたスーツに着替えた。ところが以前かけて いた眼鏡を出して掛けるとネジが外れていたので応急処置をした。女性スタッフが慣れない手つきで眼鏡のねじを締めた。何とかなった感じで眼鏡をかけ、ネクタイをすると豊さんの貫禄にビシッと決まった。車椅子に座って足を組む姿は、今までにない立派な豊さんで見とれてしまった。堂々とみんなに見送られて出発。車中、豊さんは眼鏡を気にしてなんどもチェックしていた。
 結婚式会場の神社に着くと、孫さんとそのお嫁さんが「豊さんよくきたね〜」と暖かく迎えてくれた。豊さんの周りに家族さんがみんな集まって、今日の主役は豊さんのようだった。娘さんから「99歳になるウチのおじいさんです。今日はせっかくなので施設の方に連れてきてもらいました」と紹介してもらった。
 いよいよ神社での結婚式が始まると、結婚する2人の後姿を静かに見つめ、隣に座っていた末孫さんの手を握る豊さんがいた。厳かに式は進んでいたのだが、なんとその最中に応急処置していた、眼鏡が外れてしまった。振り返った孫さんとお嫁さんが「じいさん眼鏡外れてら」と気が付いて大笑いになった。家族みんなが振り返って注目になった。私は、「あ〜しまった」と思うが、かえって場が和んだ感じになって、みんな笑ってみていてくれる感じで温かい空気があった。
  一難去ったところで、今度はお神酒が回ってきた。豊さんは普通の食事ができず、普段はソフト食で水分もトロミを使ってのどに詰まらないように摂っている。そんな豊さんにお神酒がまわってきたので、無理なんだという雰囲気でまたみんなの注目が集まった。ところが、お神酒徳利が渡されると豊さんは、挨拶が待てずに一気飲みした。その姿にみんな驚きながら笑ってくれた。ほとんどむせずに飲んだのは凄かった。おかげでめでたい席でお酒を飲みすぎたような赤い顔になった。
  太鼓が打ち鳴らされ、式は終盤に入り、神主さんが「これで閉式です」と言ったら、それに豊さんが「はい、ご苦労さーん」と大きな声で応えた。かなり耳が遠い豊さんだから、神主さんの声は聞こえないはずなのだが、やりとりのタイミングがバッチリなのは不思議だ。こうして式を最後の最後に締めたのはやっぱり豊さんだった。まるで結婚式の主役だったかのような豊さんの存在と、それを受け入れてくれるとても和やかな家族さんで、温かい雰囲気の結婚式だった。  式の後は全員揃って記念撮影をした。孫さん達を中心に家族が集まって、孫さんと同じ列の並びに99歳の豊さんもしっかり入っている姿は感動的だった。
  家族さんと、こうした感動を一緒に共有できることへの感謝と仕事への誇り、里の場のありがたさが相まって、貴重な感動の場面に立ち会えて私自身幸せな気持ちになった。 来年100歳の豊さんの元気で、これからも私を引っ張っていってもらいたい。
 
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