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作業じゃなく暮らしをやろう【2012.07】
グループホーム第1 木間 智央

  私は、これまで大学時代も色々なアルバイトをしてきた。いつも「早く仕事を覚えよう」「てきぱきとこなそう」「みんなに迷惑をかけないようにしよう」そんなことを考えながら仕事をしていた。
 社会人になり銀河の里に就職が決まり、期待や不安、緊張でいっぱいだった。実習期間を経て、3月から仕事が始まった。私はいつもノートを持って仕事に行き、先輩たちから教わったことや、一日の流れを書き取った。部屋に帰ると大きなノートにその日一日のメモをまとめた。「自分がすべき仕事を早く覚えよう」「みんなに迷惑がかからないように動こう」という、一生懸命さだった。出勤前や仕事中でも、大きなノートを見て一日の流れや、自分がすべき仕事を覚えよう(暗記しよう)と努力した。 私は利用者のアヤ子さん(仮名)が苦手だった。「昼食前にはパットの確認に行かなければ・・・」そう思いアヤ子さんに声をかけるが、いつもつれなくそっぽを向かれてしまう。私は「何とかしないと・・・」と焦りながら何度も声をかける。そしてついにはアヤ子さんに怒られるばかりだった。しかたなく先輩たちに助けてもらって「また迷惑をかけてしまった・・・」と更に焦った。乾いた洗濯物が山のようにあると「いつたたもうかな」と考えて、持っていくと、テーブルに出す前からミサさん(仮名)に「ダメです!」と拒否された。
  5月にゆう子さん(仮名)とスタッフの西川さん、理事長、施設長、そしてワークのスタッフも一緒に沢内まで“かたくりドライブ”に行った。ゆう子さんの昼食後の薬を預かっていた私は、「いつ食べ終わるかな」「そろそろかな」ということばかりしか頭になく、食事が終わると「はいお薬」と慌ただしく薬を出したと思う。一緒のテーブルで食べていた理事長に、「なんで業務にしちゃうの?つまんなくない?」と言われた。何のことか解らなかったが、後で聞くと「出かけて楽しい食事まで、いくら薬だからと言って仕事ですることないでしょ」ということだった。さらに「仕事なんかしなくていいんだよ」というので全く解らなくなった。
  そのころのある日。先輩に「座ってゆったりしよう」と言われ、WゆったりしようキャンペーンWが始まった。しかし私は、意識して座るものの、やはり「次の仕事は何か」「どう動けばいいのか」ということばかり考えてしまっていた。
  このころリーダー美貴子さんに「理事長と面談したら」と言われていたのだが、緊張する私は、なかなか理事長に電話できないでいた。美貴子さんは、面談の日程を知らないうちに決めて、その上、前もって教えると私が緊張するだろうと直前に「今日14時から面談です」とあの笑顔で教えてくれた・・・。その時から14時まで緊張しすぎて何をしていたか全く覚えてないほど、ずっと緊張していた。そして14時。
  初めての面談。いすに座ると同時に「最近どう?ていうか仕事しなくていいんだよ」・・ちょっと固まってしまった。「仕事をしない?どういうことだ?」と頭の中で色々とぐるぐると回 っていた。「先輩たちが、座れる環境を作ってくれただろ」言われてハッとした。私はあのWゆったりしようキャンペーンWの意味を全く理解していなかった。私は「みんなに迷惑をかけないようにしよう」と張り切って利用者の存在を無視していたのだ。作業をこなすことを意識しすぎてバタバタと動き回っていた。気付いた途端、泣きたくなった。もう色んな感情で頭も心もいっぱいだった。利用者はここで暮らしている。そこに私はズカズカと入り込み、バタバタ動き回る。利用者の暮らしも気持ちも無視して、無理に手を引いたり、何度もしつこく誘ったり、怒られれば勝手に苦手意識を持っていたのだ。
 アヤ子さんに申し訳ない気持ちになった。彼女からしてみれば「何だこいつ」という感じだろう。私は「就寝前に交換しなければ」と焦って無理にパット交換をしたことがある。「早く仕事を終わらせなければ」という考えだったそのころの私は、洗濯や風呂掃除など、自分がしなければならない仕事が残っている状況に焦っていた。無理に立ち上がってもらって部屋へ行き、交換に取り掛かかるとアヤ子さんは出て行こうと歩き始めた。私はさらに焦る。私はアヤ子さんの前を塞ぎ、無理やり交換した。あと少しで終わると思った・・・そう思ったとき、アヤ子さんにビンタされた。手の平というより手首で、ものすごい勢いで叩かれた。一瞬頭が真っ白になった。今考えてみれば、私は本当に失礼な事をしていた。私だって知らない人に、行きたくもないのに「部屋に行こう」なんてしつこく言われたら怒るだろうし、いきなりズボンを下ろされたら殴る。
  面談で理事長に「介護するんじゃなく、一緒に暮らせばいいんだ」と言われ、すごく心が楽になった。「○○しなければ・・・」と焦ってばかりいると、知らないうちにどんどん自分が追いつめられていく。「介護はやめようぜ」との言葉に救われた。私はこの日を境に「○○しなければ・・・」と焦らなくなった。利用者とスタッフ、みんなと一緒に、一日一日を大切に過ごしていきたいと思えるようになった。
 そう思うといろんな見方が変わった。特にアヤ子さんとの関わりは全く変わった。いくら頼んでもパット交換のために立ってもらうことが出来なかったのだが、ある日アヤ子さんは何のことなく立ってくれた。すごく嬉しかったのだが、まだ無理かなあと少し落ち込んでいた私は固まってしまった。そんな私を見てアヤ子さんは笑っている。私も緊張がほぐれて一緒になって笑った。アヤ子さんの「立っただけでなにそんなにビックリしてるのよ」という声が聞こえてくるようだった。今でも無視されたり怒られたり、(この前なんかは、みぞおちにキックを受けた。自分の反応の悪さに落ち込んだ)一筋縄ではいかないアヤ子さん。でも最近は楽しめる。「今日は行けるかな?どう返されるかな?」とそのときのでたとこ勝負で行こうと思う。
 私は面談をきっかけに、「○○しなければ」という焦りの中にいては、見えるものも見えなくなるということを、アヤ子さんを通して学んだ。これから利用者と一緒に過ごしていく中で、色々なことを経験するだろう。その度ごとに一歩ずつ成長していきたいと思う。銀河の里で自分がどう育つのか楽しみにしたい。
 
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