トップページ > あまのがわ通信 > 2012年7月号 いつも新人の気持ちでいたい

いつも新人の気持ちでいたい【2012.07】
特別養護老人ホーム 川戸道 美紗子

  3月末に銀河の里に来てもう4カ月目。毎日毎日ダメダメな自分ながら、あっという間に日々が過ぎて行く。 6月30から2日間、新人研修で東京・鎌倉へ行ってきた。東京ではピナ・バウシュ追悼公演と杉本博司展『ハダカから被服へ』を観て、それから大磯のホテルに宿泊し、翌日は鎌倉でそれぞれ自由行動。私は長谷寺、鎌倉大仏などをめぐり、江ノ島水族館を見学した。研修といっていいのか分からないほどはしゃいだ感じで過ごした2日だった。
 研修から帰ってきて翌日、さっそく江ノ島水族館のお土産「深海まんじゅう」(真っ黒のごまのおまんじゅう)をユニットのおやつの時間に食べた。ほぼ昼夜逆転しているが、元気で気性の激しいおばあちゃんのコラさん(仮名)は、いつもはおやつの時間帯は居室でぐっすりなのだが、しかしこの日はタイミング良く「水っこくださーい!」と起きてきた。チャンスとばかり、私はコラさんに「まんじゅう食べない?」と声をかけた。コラさんは来たかとばかりに「・・・まんじゅう?(笑)あなたのまんじゅう食うってか!!(笑)」といつものように下ネタでふってくる。コラさんの下ネタは体調も機嫌もいい証拠!私もテンションがあがり一緒におまんじゅうを食べる。
 「やや、真黒だじゃ〜!どこで買ってきた?」「江ノ島!」「江ノ島?聞いたことあるなあ」「そこさ行って来たんだよ」「なしてや?」「(うーん、研修のことをどう説明しよう?と悩みつつ)・・・社長に、早く独り立ちするように行ってこいって言われて行って来た!」と言ってみると「ほ〜う!」と感心して聞いている。私は、初めて行った鎌倉のこと、江ノ島は、生えている木々も岩手と全然違ったこと、海にたくさん人がいたこと、自分が新鮮に感じたことを次々と伝えた。
 「・・・その社長、本当にいい人だな〜。たとえば『寂しい』とか『大変』とか言ったって、誰かを送り出す時そんなの言ってられなくなる時もあるんだ。社長はあなたをなんとかしたくて連れでったんだよ?難しいと思っても。人は、どこさ行っても寂しいんだよ。その寂しさをどうにかするのは難しいんだ〜。・・・生きるってのは、 難しいんだ。・・・オラだって難しいと思って生きてきた、結婚だって遊びじゃねえ。お互い出世してからでないと結婚してはダメ。生活してかねばいけねんだもの」
 コラさんはたくさん喋ってくれた。それはいつもの世間話やグチではなく、違った語りだった。何というか・・・初めてコラさんから【学ぶ】感じがあった。“生きるって難しい”、とコラさんは語った。荒波に揉まれて生きてきたコラさんの言葉だからこそ、胸に響くものがある。
  コラさんは私に聞いた「あなたは歩きたいと思うか、ここさとどまっていたいと思うか?」と。なんのことか具体的には解らなかったが直感的に「私は、歩きたいと思う!」と応えた「んだば歩くんだ、ここさとどまっていたい人は、それはそれでいいんだ」と返って来た。『歩く』は、きっと物理的な意味だけじゃないだろうな。私はいろんな事を経験したいし、なんでもやってみたい、行ける所まで行ってみたい、場所も自分の成長も含めて。コラさんに『歩く』という言葉を貰ってそう思った。
  「今日は重大な話をしたよ」コラさんはそう言って話をしめた。わたしもコラさんから重大なことを学んだような気がした。普段とは違うコラさんに触れた。
  最近、コラさん本人が「ベッドの柵はずしてけで!でないば歩けないべ!」と“歩く”気持ちになってきている。私の第一印象は怖いおばあちゃんで、顔も中身も鬼のようで、話しの内容は現実で、グチも多く、やや後ろ向きなコラさんからそんな言葉を聞いて、私は何とも表せないキラキラした気持ちになった。最近、怖いのが抜けてコラさんの話は面白いと感じられるようになった。コラさんの怒りからも、元気や勇気や頑張ろう!という気持ちにさせられる。
  言葉は、その人の人生を表すと思う。どんな生き方をしているかで、きっと選ぶ言葉も表現も違う。コラさんからの教えは、コラさん本人から聞かなければ意味がないものだと感じた。新人研修も多くの経験が出来て刺激的だったが、毎日の生活の中にもこうやっていろいろな刺激が潜んでいる。刺激慣れしないで、いろんなことに感動していきたい!
 
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