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生き返らせるぞユニットすばる【2012.06】
特別養護老人ホーム 三浦 元司

  銀河の里に来てから今年で3年目、ユニットリーダーを任されてから、チーム作りや会議に追われる感じで、自分のやりたいことが里でもプライベートでもなかなか出来ていない状態だった。そんなだから利用者さんに意識がいかなくなり、深められずにいた。そんな自分にイラつき嫌気が差す。スタッフや理事長ともだんだんと離れてしまい、自分でもどうしていいか分からなくなる。里にいれば活き活きしいた自分が、透明人間にでもなってしまったかのような感覚で、つまらない時間が過ぎていく。
  そんな中、5月からオリオンからすばるへとユニットを異動した。すばるでも新しいチームを作ろうとするのだが、これがまたうまくいかず、悩み落ち込む日々が続く。すばるのスタッフは以前と違いそれぞれ個々は良いものを持っており、いろいろやっていけるはずで、利用者さんも開設時からいた方も多く、深めるにはもってこいなのに、チームが動いていかない。1人1人がばらばらで、やりたいことも進まないまま消えてしまい、結局まとまらない。医療面の管理を意識しすぎてか、キチンとやらねばと強迫的な感じになっているので、結局点と点にしかならず、返って抜けてしまう傾向もあり、申し送りもできていない。利用者に関心が向けられると、自然にできていく事だと思うのだが、チームで考えを深めていく事など、まだほど遠い感じだ。スタッフも個々には何とかしようと思ってはいるものの、実際にどうすればいいのかわからない。
  そんな悩みの中だが、利用者さんからは、応援歌のような行動だったり、さまざまな表現でエールをくれて救われる自分がいる
  ユキさん(仮名)はいつもムスッとした表情ながら、1番長くリビングに座っている、なかなかクセのあるばあちゃんだ。
  いつも毒舌で「こんなカスみたいなまんまよこして!」「タダでここさ入っているんでねぇ!」「オレばり部屋さ連れでがれる!1日中寝でろってが!」と愚痴ってくる。実際は厨房スタッフが手の込んだソフト食を作ってくれたり、ユキさんのために特別に柔らかいご飯も炊いてくれたりしている。おむつ交換で居室に行ってもすぐにリビングに戻っているし、夜のユキさんだけの特別な時間も作っているのだから、ユキさんの言葉を表面で聞いているとしんどくなる。でも、言葉の裏のユキさんを理解するとそこには救いがある。
  先日、ユキさんのお風呂を担当した。ユキさんも楽しみにしていたのか、数日前からスタッフ用の予定表をみては「この日お風呂だもんね♪」と声を掛けてくれたりしていた。ユキさんは夕食後、みんなが入床した時間でないとお風呂に入らない。さらにかなりひねくれていて、本当は入りたいのに、入らないとごねたりする。お風呂の当日も「べちょべちょづいの食ったっけば具合いわるぐなった〜。オラ今日風呂さはいらいねぇ。」と始まった。私は「きたきた〜!」と楽しくなってくる。本当は入りたいのは解っているので半ば強引に風呂場に移動すると、さらに「オレのごど殺すつもりだぁ〜。」
  「オラはもう人生に悔いはなんも残ってね!さっと殺してけで!早ぐよ!」と大声で叫び修羅場になる。これがどこか楽しく感じる。「わがったよ!じゃー今がら40度の丁度良いお湯の中に、ユキさんを首まで沈めて暖まるまで殺すがらさ♪」とニコニコで返す。【殺す】という単語が【暖まる】に聞こえるので、私もその意味で殺すと言ってしまえる。すると、「なに〜!このガキ!」と殴る引っかくの大暴れになり、「本当に90過ぎのソフト食対応の車椅子のばあちゃんかよ…」と信じられないほどの暴れっぷりだ。やっとリフトに乗って「これがら、丁度良い温度の湯さ沈めるぞー!」というと「こんな色っこのねぇ湯っこ初めてだ!いっつも赤だの青だの匂いすんのだもん!ぬるい!風邪引いたらどーすんだ!」とよく思い浮かぶなと思うほどいろいろ怒鳴ってくる。ぬるいというので熱いお湯を入れながら笑えてきた。「だって人生に悔い はないんだべ?殺して良いんだべ?なのに風邪引いたらダメなの!」とツッコミを入れてみた。すぐさま「当たり前だべー!」と浴槽のお湯をバシャーっとかけてくる。「なにすんじゃい!俺が風邪引くって!」と大声で怒ると、耳が聞こえないフリをして知らん顔している。お風呂から上がったら「オラ白でねくてピンクの肌着だもん。」「髪さやってだピン11本あるはずだ。探せじゃ。」「オロナミンCも出さね。」と追撃は止まらない。着替え終わって、居室に帰った後に行くと今度は人が変わる。「あんた奥さんは?良い人見つけた?」「釜石がらきたのっか。オラもよぐ行ったったよ♪」「結婚してがら、オラ横須賀さいだったの♪ちょっと都会さ。フフフ♪」とニコニコしている。電気を消すと「また一緒に入るべね♪もとひでさん♪」と、言ってくれる。(もとしなんだけど、間違ってるけど、まぁいいか)
  また、別の日の入浴時には「具合悪い〜。」と言っている。「今日はどんな風呂になるべなぁ。」と楽しみにしていた。すると、「オラに死ねって言ってるのっか?」「みんなにイジメられる〜」「おもしろくねぇなぁ〜」とつぶやきながら、「エーンエーン。」と目に手を当てて泣きまねをして「グスッ。グスッ。」と鼻水をすすっている。それが入浴中ずっと続く。「ユキさーん。オレが悪がった。泣がねぇでけで〜。」とあたふたしいると、チラッとこちらを見てから「…エーン。」と泣きまねを続ける。ガンガンと正面からぶつかって来るのは得意なのだが、ウソでも泣きが入ると調子が崩れる。このときはユキさんの圧勝だった。案の定、風呂から上がり居室に行くと、前回より上機嫌で質問攻めに会う。そして、電気を消そうとすると、「また一緒に入るべしね♪もと美ちゃん♪」となる。(今度はちゃんか。圧勝だからちゃんかよ!)ユキさんのひねくれ少女は私を応援をしてくれる。
  真澄さん(仮名)はしばらく食事が進まず少量しか食べられないでいた。歩行もおぼつかなかったが、ある日、居室で2人で話していると「オラは今こんな体になってしまったから歩けないし働けなぐなってしまったども、ホントはココさいる人間でねぇんだ!こんなんでねがった!」と話してくれた。その話をしたからかどうかはわからないが、その日から食事を完食するようになり、どこかへ出掛ける時にも「車椅子持ってくるっか?」と声を掛けると「やんか!」と断って、自力で歩いくようになった。なんともいえない濃い感情というか、オーラのようなものを感じさせる人だ。
  また、タクヤさん(仮名)は「ちょっとちょっと。」と寝る前に呼んでくれたので、部屋に行くと「オメさん、最近なんか悩んでるべ。まぁー、しょうがねぇんだ。今はオメ力ねぇんだしさ。焦らねくたって大丈夫だ。2,3年後に‘まぁなんとか出来ましたわ’くらいでさ。それにしても、安い給料でよくやるごど。まぁ俺らもあんたがたに生かしてもらってるどもな。んー…お互い様か。ハハッ。さっ。寝るっか。」と、実に適切な言葉をくれた。
  新しいユニットでチーム作りに悩む私は、いろんな利用者さんに助けられ、気合とともに支えてもらっている。やはり、じいちゃん、ばあちゃんの力はすごい。
 利用者もスタッフも良いんだから、絶対いいユニットができる。スタッフが力を合わせ、じいちゃんばあちゃんにも育てられながら、新しいすばるを作っていきたい。
 
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