トップページ > あまのがわ通信 > 2012年5月号 〜 研修に参加して 〜 仙台タテタカコLIVE「第3ノ金曜日」

〜 研修に参加して 〜 仙台タテタカコLIVE「第3ノ金曜日」【2012.05】
特別養護老人ホーム 中屋 なつき

 映画『誰も知らない』を観たのは、いつだったろう?10年前になるだろうか、劇場で見た。 観終わった後、なんとも言葉にならない、重いテーマとはかけ離れた、どこか頭も身体も軽くなる感じが残ったのを思い出す。昨年、通信で施設長がこの映画を取り上げ、最終的にタテタカコに辿り着いたという話を読んで、再びDVDで観てみた。今回の注目はストーリー展開よりもタテタカコの歌。澄み渡る歌声と、それに似つかわしくない黒い詩。そう言えば一回目に映画を観たときにも「異臭を放つ宝石」のところのフレーズが妙に耳に残ってはいたが、これは確かに…いったいなんちゅう人なんだ?! それから彼女のCDも聴いた。黒いけど優しい。あの小さい身体から出る力強い澄んだ声。一度聴いたら頭から離れない世界。この3月、仙台に来たタテタカコのライブに銀河の里の職員研修と言うことで出かけた。ライブはDVDの印象を遥かに超える感動の体験となった。
 
 舞台袖から楽譜を抱えて登場した彼女は、小柄ながらも、出てきた瞬間にとてつもない存在感を放っていた。ライブの冒頭挨拶での言葉は独特だった。「今日は、みなさん、それぞれの場所からいらして頂いて、ありがとう。ここでこうして会えて嬉しいです」それを聞いた途端に涙が溢れる。なんなんだ、この人は…! 優しさが満ちあふれている。“それぞれの場所から”のフレーズに、今回、銀河の里の研修として岩手からはるばる出向いた意味合いまで汲み取ってくれているのではないかと驚く。
 おそらく施設長が“ホンモノをみんなにも見せたい”と考えてくれただろう今回の研修。参加するメンバーの選出も、特養で“育ってほしい”とユニットの中堅メンバーを選出した戸來さんと私の気持ちがある。そんな気持ちまで全部伝わっていて、一言めからすでに核心にズドンと届いてしまう。そんな感じ。なんなの、この人…! 当然ライブは感じすぎてボロボロになってしまう。音楽ライブなのに結構みんな泣いていたぞ。
 そうしてライブを閉める最後の言葉も、「それぞれのお布団まで無事に辿り着いてくださいね」なぁんて、普通、言わねぇよ! いったいどういうんだろう?! 歌の合間に見せるふとした微笑みは、コラボした画家足田メロウさんのペインティング作品や、「タテタカコ 第3ノ金曜日」という大きな文字の書にまで、丁寧に優しく向けられている。
  ひとつひとつに手をかざして会場の拍手を促したり、自らもお辞儀をしたり、魂の籠もったモノへの敬意と愛情がたっぷりで、いちいち優しい。ホントに“何”なんだろう、この人…?!
 そして、歌。天を仰ぎ、両手を伸ばし、空間から何かをつかみ取ったかと思うと、目をカッと見開き、牙を剥いて歌い出す。あちらの世界から降りてきたモノを歌というカタチに変えて伝えてくる。その声は、耳からだけでなく、空気を伝わって目から口から鼻から入り、私の食道や肺にまで直にすべり込んでくる。澄みきって鋭くて引き裂かれそうな痛みがくる。息ができなくなり、脳味噌の酸素が足りなくなるような感覚。涙と鼻水の嵐で、ちょっと具合が悪くなりそう。ものすごい迫力で、私の心も身体も鷲掴みにされた。
 ちょうどそこで歌の合間に「具合悪くなりそうな人、いませんか?大丈夫ですか?」と観客に問う彼女。「具合悪くなって倒れる前に、隣の人にちゃんと言ってくださいね」あぁ、この人、ちゃんとわかってるんだ、とホッとする。彼女の“黒いけど優しい”のは、ここだ。ほとんどあっちに行っちゃってる人で、でも、ちゃんとこっちに帰ってくることの大切さとその方法をきちんとわきまえている。危ないくらいにあっちに親密なのに、オカルト的に行っちゃったっきりにならない力と技を持っている。歌があってよかった。聴く者を鮮やかにあっちに連れて行ってくれる魅力と同時に、ちゃんとこっちに帰してくれる強さも兼ね備えている。プロだな、と思う。手元の楽譜やメモに向き合って「うん、うん」と何かを確認している姿は、自らを“今”とか“ここ”に意識的に繋ぎ止めている様子にも見えた。センダイシロウさんや足田メロウさんを布置させているのも、彼女自身の守りであると同時に、会場全体も守る大切な装置のひとつなんだろう。

 あちらとこちらを行き来し見えてくるモノを紡いでいくという才能と使命を背負った存在、超越世界の体現、ホントにこんな人もいるんだなぁ…という感激。そこに命をかけて人として生きる様、こんな世界もあるんだ…という感動。“黒く優しきモノ”と出会えた喜びに身震いがした。

ライブ終了後、タテタカコさんを囲んで記念撮影
 
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