・幾とせの 年月を共に 今日の日は 白寿を迎え バンド奏でる
・あなたとは うなずくだけで 繋がれる 誕生日も 普通の日も
・いつの間に 踊る宴に みなジャンプ 明日への夢が また開かれて
グループホーム最長老の豊さん(仮名)の99歳の誕生会が、3月26日の夕方、盛大に催された。これが普通の誕 生会とは相当に次元の違う不思議な宴(うたげ)となった。
結成したばかりの銀河バンドが初の演奏を披露するところから始まる。「オレは、これ(ギター)で介護やっています。」と、張り切るバンドリーダーの酒井さん。ベースは細身の寛恵さん、ステージで緊張気味だがベースを抱えた姿はさまになっていた。ボーカル担当の二唐さんは、Jポップ風のコスチュームで場を盛り上げた。主役の豊さんは、いつもの定位置でみんなを地平からだけでなく上空からも見守っている。私はその隣に座る。「今日、豊さんの誕生日だよ。
おめでとう。」と言うと、表情は変えず、遠くを睨(にら)みながら 呻(うめ)くように頷く。
演奏が始まるがなかなか思うように声が出ない二唐さん。時々、声を裏返しながらも、激しく飛び跳ね「東京ブギ」や「ハワイ航路」、「上を向いて歩こう」など懐メロを歌う。音楽が流れる中、豊さんは時々思い出したように手をたたき、「ふぁー」と大きく息を吐く。1部の演奏が終わ
るころ、ソファに座って聞いていたメイ子さん(仮名)が突然ステージへ上がった。「えっ!」とスタッフもどよめく。バンドと一緒に足でリズムをとりはじめる。思わず私もステージに上がりメイ子さんの手をとって一緒に踊る。そこに当然のように、歩さん(仮名)やクミさん(仮名)も加わって、みんなで踊るステージになった。銀河バンドのデビュー演奏は会場の老若男女を一体の渦に巻き込み、いつもは「暗い」と不評のリビングのオレンジの灯りのなかでレトロな怪しい雰囲気を醸しだし、昭和初期にタイムスリップさせた。なんてったって、曲の最後は、みんなでジャンプだぜ!
豊さんは入居以来この8年目で初めて体調を崩し2月に初入院して帰って来たばかりだ。家族さんはグループホームに戻って来られるか心配していたが、私は「豊さんなら大丈夫」と確信していた。退院時病院からの申し送りに3時間ごとの体位交換、エアマット使用とあったので、これからは寝たきりの生活かと覚悟した。しかし今は不安定ながらも歩いているし、着替えや入浴の時には、たんぱ(唾)やパンチが飛んできて、入院前以上に調子がいい。機嫌のいいときは、リビングのテーブルをトントンとリズムよくたたく。ケンカで険悪な雰囲気の時は、仲裁に入ってくれるかのように、バンと大きく1回叩き「終わり」を宣言してくれたりもする。GH2の守り神的存在だ!
酒井さんとおソロの赤いタオルをプレゼントされると大きな拍手が起こり、頭に巻き付けると、「よっ、親方」と呼ばれた。まんざらでもない表情。まだまだGH2の親方は健在だ。
暖かいものがジーンと胸にこみ上げてきて、しみじみと感動できた誕生会だった。来年は100歳、さらに盛大な宴にして一緒に迎えたい。
宴の終了は、また新たな「希望」への一歩だ。 |