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新年度が始まった!【2012.04】
特別養護老人ホーム 中屋 なつき

 昨年度は、私もユニットの現場に入り、チーム作りに力を入れてきた。特養立ち上げに際し、介護職としては最悪と思えるような質の低い職員と組まざるをえず、結果、現場は介護工場化してしまいそうな危機的な状況で、利用者が置き去りにされる悔しさと怒りに震えながらの日々が続いた。3年の間に、90名近い職員が去った事実は、闘いの日々を現す数字でもある。寒々しいユニットをなんとかしなければ!と燃える少数の若いスタッフと共に取り組み、大きく雰囲気も変わってきた3年目の昨年度だった。新人も含め、利用者への深い眼差しをどう育てていけるか、勝負の年だった。利用者と共に在ることに喜びを見出すことのできるメンバーが揃い、チームで取り組んでいく視点も伝わり、やっと何かを育む環境が整ってきた。
 今年度は新たに各ユニット1名ずつの新人が入った。既存のスタッフは1〜2ヶ月前から受け入れ体制を整えてきた。利用者一人ひとりについての介護面での要点を細かく再確認し、業務内容に無駄はないか、もっと工夫して効率よく空間を作っていくことはできないか等、これまでの仕事をモニターしてみた。新人に伝えたいことや、わかって欲しいことは何か、ユニット内で大切にしてきた関係のプロセス、それをどう伝えていけばいいか等にも意識を高める。「ミーティングしよう!」とユニットほくとのスタッフから声があがり、若いスタッフが自分たちで「なんとかしよう!」とやる気になって、どんどん提案や意見が出てきた。こうなれば自然に事は動いてくる。失敗したって、それさえ次の成長の糧になっていくもんだ!
 去年の新人も現場で鍛えられての2年目。一年前はまるでガキンチョで、おどおどビクビクしていた人が、身のこなしや顔つきまでしっかりして、イメージも持って、言葉で意見を言えるようになった。目の前のことで精一杯だったのが、ユニットのチームや特養全体にまで意識が及び、引き受けて考えるようになっている。
 各々の成長の過程に深く関わってくれているのが利用者さんたちだ。「私が変わったのは○○さんがいてくれたから」とか「●●さんに育ててもらった」と明確に“師”と呼べる利用者さんと出会えることの有り難さを改めて強く感じる。
 そういう出会いが、今年の新人のみんなにも起こってくればいいなぁ…と願いながら、採用前の実習を受け入れた。ほくとの新人、角津田さんは、丁寧な接し方をする人で、作業も丁寧にゆっくりやっていくタイプだ。弥生さん(仮名)に「新しい姉っこ来たからよろしくね」と私が声をかけると、角津田さんの顔をまじまじと見つめる。「初めまして」と挨拶する彼女に「オメ、ここで寝てまんま食って大きくなるんだな」と例のごとく、鋭い言葉をくれた。かなりの認知症だからこその、いつも本質を絶対にはずさない弥生さんの言葉が心に響く。
 新年度が始まり、ユニットほくとへ昼食を食べに行った。食後、レスキュー隊長カヨさん(仮名)が動いた! いつものように「小山田に行く」と隣のユニットすばるへ足を向ける。その拍子に私に「行くっか?」と声をかけてくれたので、手を取りあい「よーい、ドンッ!」とかけっこでスタート。すばるでは、ちょうどリビングからお風呂場までを「よいしょヨイショ」と歩いている洋治さん(仮名)と宮さんに遭遇し早速レスキュー、「おんじさん、だいじょぶだ っか?」と手をかすカヨさん。そのまま4人で「それそれ」「よいしょヨイショ」と賑やかにお風呂場まで歩いた。洋治さんが無事に脱衣場のベンチに腰掛けたのを見届けると、そのまま廊下へ出るカヨさん。「あっちにも困ってる人、いたはずだ」とユニットことに向かう。ことではちょうどおやつタイム。「かたって〜」と誘われテーブルで二人でくつろぐ。くつろいでいるといろんな事が見えてくる。ユニットことの新人、川戸道さんが、この日早速コラさん(仮名)の辛口トークに泣かされたようだ。それを新リーダーの山岡さんが丁寧に見てくれており、「さっそく洗礼を受けて泣いちゃって、でも泣くのも大事なことなんだよ、って伝えた」と話してくれる。新人らしい利用者との出会いを、特養に異動したばかりで、まだ勝手もつかめない時期の山岡さんが、しっかりリーダーとしてユニットを見守ってくれている。「コラさんもどこかで新しい人、若い人を受け入れようと頑張ってくれている」と山岡さんには両者へのまなざしがしっかりある。
 山岡さんと私のやりとり「んなんだなさ」とうなずいて聞いていたカヨさん、そろそろ行くっか?と立ち上がると、今度はお隣のユニットオリオンへ向かった。ここでもお茶を出してもらって落ち着く。オリオンはどんなかな?と一緒に腰をおろす。ここでは新人の菊池さんよりも、なんだか新リーダーの三浦くんがモヤモヤしている。今年の春はオリオンで畑をやるぞ!と桃子さん(仮名)と気合いが入ったものの、燃えすぎたのか争いの日々。三浦君の北斗時代の名コンビだったカヨさんの登場にもいまいちパッとせず、なんだかさえない表情…。桃子さんの口撃にやられてユニット全体が見えなくなっている感じの三浦くん。かたや新人も気にかけながらリビング全体の動きを把握してくれている平野さんは、そんな三浦くんに少々苛立っている様子。新人の菊池さんは不安もあるだろうけど、表面は明るく元気いっぱいなので、あまり自分でかかえて頑張らなければいいがと気にかかる。オリオンの利用者は変わらずマイペースでいてくれる。
 カヨさんの散歩に連れられて各ユニットを巡り、ふむふむ…と思っていると「さまざまなんだ」とカヨさんが鋭いセリフ。今年度、事務所に戻った私の手を取り、各ユニットを巡って連れて歩き、まるで「どっこもちゃんと見守って支えてやれよ」と、カヨさんが私の役割を指し示してくれたかのよう!
 私の抜けたユニットほくとでは、代わりに利用者のサエさん(仮名)が全体をみて指揮をとってくれているかのようだとミーティングで話が出た。新リーダーのほなみさんは「助かる、支えてもらってる」と話す。新人の歓迎会で、ユニットですき焼き夕食会を開いた時にも、率先して鍋奉行を買って出たサエさん。サエさんから新人の角津田さんへ花束の贈呈があり、感涙の彼女に「ゆっくり食べましょう!」と言葉をかけてくれた。「ゆっくりでもいい、一緒に大きくなろう!」と励ましてくれたように感じる。2年目の菜摘さんは、弥生さんに「おめ、ここまで来たんだ、逃げ出すなよ」と声をかけられたとのこと。新人を迎えて新たなチームを作っていく気概を真剣な表情で語りながら「私へのエールだと思う」と菜摘さん。
 チームの一人ひとりが、利用者さんたちへの想いやユニットの暮らしをどう作っていくかなどを、自分で考え自分の言葉で語り始めた。利用者さんたちもそんな若者たちを支えてくれている! 立ち上げ4年目、いい感じが出はじめてきた特養! やっとここまで来た。
 
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