トップページ > あまのがわ通信 > 2012年3月号 奈良の「たんぽぽの家」で研修

奈良の「たんぽぽの家」で研修【2012.03】
ワークステージ 日向 菜採

1月28日・29日、私は奈良にある「たんぽぽの家」という施設で開かれた「福祉をかえるアート化セミナー」に参加してきた。
 たんぽぽの家は、障害とアートを軸に長年活動している団体で、就労継続支援B型や生活介護事業などの福祉サービスのほかに、アート作品を商品企画し製作・販売をするプロジェクトも行っている。
 たんぽぽの家で昨年から、施設で生産した商品を集めてギフト販売を企画した。その企画の担当者と里の職員のつながりもあって、里の焼売と餃子のセットを販売してもらってきた。昨年、営業と見学を兼ねて理事長、施設長、米澤が訪問した。今回たんぽぽの家で主催するこのセミナーに、理事長などの強い勧めもあって私が参加することになった。
 セミナーには、全国各地から福祉関係者以外の人たちも大勢が参加していた。私は「これからアート化に取り組む」人のプログラムに参加し、生活介護事業やB型の施設でのアート活動への取り組みを学んだ。福岡市にある社会福祉法人 葦の家という施設の女性スタッフの講演は、もともと芸術関係の大学を卒業した方だが、施設で創作活動に取り組もうとしたところ、最初は画用紙を買うことさえためらわれる状況だったという。理解されない環境ではあったようだが、職場内の女性スタッフを中心に内部販売でファンをつくり、製作に必要な物品の購入資金を集め、今では外部に販売し利益を上げる展開しているという。利用者さんの作品はもちろん個性があって面白いのだが、何よりスタッフのセンスの良さなのか、パンフレットや商品のデザインも洗練されており目をひいた。利用者の作品に、包装やレイアウトなどで少し手を加えて付加価値をつけ、さらに商品価値を高めている。20代30代の女性をターゲットとしており、思わず欲しくなるようなかわいいセンスを大事にしているようだ。
セミナーの開催に合わせ、たんぽぽの家のギャラリーには全国の障害者がつくったアート作品が販売されていた。私は雑貨が大好きなので、販売していた靴下や流行のスマートフォンカバー、アクセサリーなどたくさんかわいい商品があって幸せな気分だった。「かわいい!」と感じるとつい欲しくしなる気持ちは女性ならきっとわかると思うが、そのポイントをはずさない商品が多かった。ターゲットは「女性」だということがわかる。
 商品をつくり販売していくとき、誰をターゲットにするかが重要になると感じた。葦の家のように「20代30代の女性」などとターゲットをしぼればしぼれるほど、客のニーズが見えやすくなり、それに答えられる商品がつくれる。そこまでの販売の戦略があることに圧倒されてしまった。
 たんぽぽの家の理事長の播磨さんの講演で「福祉は内向きになりがち。社会の変化についていかないと」と話されていた。障害者の置かれた環境は、いまだに周囲や地域が、障害者を社会にだすことに消極的で、「世の中にでてはいけない」「自己主張してはならない」と無言の圧力を一方的にかけている実態がある。そういう障害者に対する意識的、無意識的な圧力は、商品の開発にまで影響を与えてしまっているのではないかと感じた。私は里に就職するまで、福祉施設の商品はどこかデザインもダサくて当たりさわりのないものしかないように感じていた。障害者に対する意識 のありようが、商品も施設も社会からかけはなれたものにしていると思う。今回のセミナーで出会った商品の数々は、それぞれ作者の感性がストレートに自由奔放に表現されていて、それをスタッフがコーディネイトして市場での流通に耐えうる商品として成り立たせていた。「障害者が精一杯頑張ってつくった」とか「障害を乗り越えて」などとよくありがちな、一見美しい言葉の裏で障害者を馬鹿にする姿勢はみじんもない。障害者がアーティストとして社会に出ていく勝負にかける姿に惹かれた。利用者のアートを、たましいや存在の自己表現として受け止め、その価値を社会に伝えていこうとする使命によって社会とつながっているのだと思った。
 最終的な目標は、高い工賃をもらうことや個展をひらくことではなく、そこで出会った人たちとの人間関係の広がりそのものが、障がい者自身の人生そのものになるのだ。 セミナーを終わると、たんぽぽのスタッフが街に飲みに連れて行ってくれた。大きなイベントの運営をしながら、見知らぬ客人に過ぎない私を、暖かく歓迎して、気さくに話しかけてくれるスタッフのみなさんの懐の深さにも感動した。何より自分の仕事を熱く語るその熱意と考え方に刺激される。たんぽぽの家も銀河の里も私服での勤務という共通点に話しが及び、あるスタッフさんが「職場にスカーフをしていくと、利用者がそのスカーフを褒めてくれたので、そのスカーフの色は流行の色だということを教えてあげる。施設に入居している利用者さんは、テレビや奈良の街など情報を得る場が限られてしまうから、自分がおしゃれすることも仕事だと思うようになった」とのエピソードを聞かせてくれた。
 おしゃれも仕事という意識にとても感動させられた。その方の「仕事」は福祉関係者が口にしがちな自立とか就労といったお仕着せなものではなく、利用者の生活感覚や暮らしに近いものだと思った。働けて自立したとしても、お金がたくさんあっても、イコール幸せとはならないのが人生だ。人間関係が広がったり、好きなものに夢中になれたりすることは心の豊かさにとって重要なことだ。その中に、当然「おしゃれ」もあり、それは本人がおしゃれをすることだけでなく、きれいな物を見たり触れたりすることでもあると思う。
 銀河の里でも、利用者それぞれが出会いや経験を通して、心も生活も豊かになることを目指したい。自分たちが作った商品が外部で売れたことで自信につながったり、対人恐怖だった利用者が絵を描くことで関係を広げていったりと、それぞれ成長していく過程をいっしょに歩んできた。たんぽぽの家も銀河の里も、目指しているものや感覚が共通していると強く感じた。
 今回の研修でたんぽぽの家や他の施設の方たちに出会えたことで、私自身とても安心させられた。銀河の里でやっていることがことさらおかしなことではないと自信を もってやっていける気がしてきた。花巻に戻って、この感覚をどう発信するか、私自身どう生かしていくか、たくさんの刺激を基に弾けてみたい。
 
〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail: