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場ができたコタツ会議【2012.02】
特別養護老人ホーム 三浦 元司

 4回目のショートステイで、またカナさん(仮名)が来てくれた。いつもの「どのような理由でここに連れてこられたのでしょうか?」「いつになったら帰ることが出来ますか?」の質問はあるものの、せっぱ詰まった感じはなく、いつもの迫力がなくてなにか物足りない感じだった。
 昼食後、みんな居室やソファーで休んでいた。カナさんは、居室へ一旦戻ったが、10分ほどで「私、どうしてここに連れてこられたのか忘れてしまった〜。」と出てきた。そのとき、桃子さん(仮名)とコタツでまったりとしていた私は「待ってました♪」とカナさんをコタツに誘った。カナさんは「アハッ。ボケてしまったんだなぁ〜。なーしてここさ連れてこられたんだか、さーっぱりわからねぐなった〜。」と笑顔で余裕がある。私が「カナさんは先生としてココに来ているんですよ!」と言うと、「えっ!どーゆーこと!?」と興味を示してくれた。「今の日本は少子化で子供が少なくなりました。そのため、私達の世代は子どもたちに教えようと思っても、教える相手がいないのです。」と説明をすると、「うんうん。それで?私との関係性は?」と前のめりで聞いてくれる。「そんな現状なのに、カナさんはココに来てたくさんの若者(スタッフ)に囲まれています。生徒に囲まれています。現役でも教師!歳をとってからも教師!今の教師を目指している若者からしたら、教えることができる環境があってうらやましいと思いますよ。」と伝える。「ハハハ!私にはもったいないお話です。そーったに偉い先生でもないし、ただのボケ先ですもの♪」と大笑い。「ボケ先」とは、カナさんが作った「ボケている先生」の略語らしい。その後も「ボケ先♪フフ。」と何度も笑っている。桃子さんも大笑いで、「オラも若いスタッフ達さいろーんな事教えてるよ。時たまツノがおでこから何本か生えることもあっけどなぁ。」と語ると、カナさんも大笑い。
 その後も、お茶を飲みながら話していると、例のごとく「どーして私はココにいるんだろう?」とカナさんは振り出しに戻った。しかし、この時は「家さ1人で居ても不自由ないんだけどなぁ。ご飯は娘が作ってってくれるし、掃除洗濯も娘がやってくれるからなぁ…急に家が、家族が恋しくなりました。」と今まであまり聞いたことのない展 開になった。そこで私はすかさず、「カナさんはとても幸せだと思うよ。カナさんは家族にも愛されているし、帰る家もあるもの!」と言った。すると、桃子さんが「そーなんだ。カナさんは幸せさー!オラなんか子供達遠くさいて、会いたくなってもなかなか会えないんだよ。ココさ泊まっている人たちも、帰りたくても家さ帰れない人ばっかりいるんだ。」としんみりと話してくれた。それを聞いたカナさんは「私は繋がった家族が居るし、帰る家もあるから幸せなんだぁな!」と言ってくれた。
 そのうち、コタツの周りに利用者さんが集まり、コタツを囲んだ会議のようになった。議題は、《歳をとったじじばばは何をすればいいのか》に絞り込まれ討論になっていった。 そこで私は1つの案が浮かんだので発表した。「若い人が働いて日本を支えるので、じじばばはそれを手伝えばいいんだよ!子供はじじばばが保育所として預かる!じじばばが優しさと厳しさをもって育てればきっと良い子に育つ!ある程度育った若い人たちには、知識や常識や技術を指導する!んでもって、日本をよりよい国にしていく!あの世さ行く暇もないくらい手伝っていれば、じじばばも長生きする!一石何鳥だべ!どうだ!!!」と熱く発表すると「すごい!あなたは村長になりなさい!」とカナさん。「まかせてください!オレに足りないのは経験とまともな頭脳です!」と返すと拍手してくれた。私がトイレに行っている間に「まぁ、ながながそうはうまぐいがないんだどもな。フフフ。」とカナさんは笑い、桃子さんも「なったどしてもあの頭では、何十年もかかるんだ。その頃オラたちは土の中さ埋まっているんだべな。あははは。」とコタツ会議は賑やかになっていた…
 ほんの1時間ぐらいのコタツ会議であったが、カナさんや桃子さんのパワーでいろいろな気持ちが動き、自分も久しぶりに落ち着いて居られる場ができた気がした。コタツ会議の近くでは、経管栄養で寝たきりのハルエさん(仮名)と先輩スタッフの板垣さんが終始会議の行方を見守っていてくれたからこそ、こうした場が出来たと感じる。利用者さんのパワーや、自分の感情が引き出される事、それを見守っていてくれる眼差し、それらが重なって出来た場は、私にとってとても居心地のいいところだった。
 
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