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幸せな時間【2012.02】
特別養護老人ホーム 加藤 祥子

 特養ユニットの早番は一日を決める重要な位置にある。ひとりひとりが朝起きるとき、今日の調子や、気分などをつかみ、利用者がどう動くかも予想しながら、ユニットの1日を構成して行く。日勤がやってくるとそれを伝えてチームとして1日の活動を本格化させる。ただし早番は1人でユニットを見ている時間もあり、作業も多くて、体がもう1つあればいいのになぁと思う。銀河の里は特養とはいえ、認知症対応の伝統があるので、動きのある利用者も多く、起床介助に居室に入りながらも、リビングで動きのある利用者も把握しながら作業を進めることが求められる。
 1日が始まる瞬間に立ち会えるので、言葉だったりイメージだったり、利用者の様々な動きが見られて楽しい。朝遅くに起床する人が多い日は、おせおせでバタバタになる。起床時間がそれぞれ自由なので、利用者はいつ起きてもいいのだが、スタッフが少ないので、食事介助や動きへの対応、起床介助が重なると余裕がなくなる。あれもこれも頭で考えすぎると自分の動ける範囲を超えて、いっぱいいっぱいになり自分を失いそうになる。余裕があると思っていても、急にてんぱってしまう現象が私を襲ってくる。早番はこの現象に陥りがちで、気をつけていても、突然やってくる。自分を見るもうひとりの自分の力が私にはまだ足りない感じがする。忙しくなっても、ゆとりを持って全体がみわたせるような安定感が私の課題でもある。
 先日どうしようもないくらい時間に追われて、座ることもできない忙しい早番の日があった。その日は、9時をまわっても4人が起きておらず、それが食事介助の必要な人ばかりで私はぐるぐるして混乱していた。10時が過ぎて、なんとかみんなの朝食が終わった。次は10時のお茶タイムがある。座れない自分にいらつきながら、ピリピリしていた。 その時、後ろから私の腰を指でちょんちょんとつつく人がいた。振り向くとサエさん(仮名)だった。サエさんは元教員で凛とした姿勢で、厳しく指示や指導をする人だ。ちょっと近寄りにくい時もある方だ。そのサエさんが、ニコニコと穏やかな表情で「あそこにあるコーヒーもらっていいですか?」と話しかけてきた。後ろからツンツンも驚いたが、コーヒーを飲んでいいかと、座って休めと言ってるようなその言葉と雰囲気に、ピリピリしていた私の心がふわっと柔らかいものに包まれた感じで自分を取り戻せた。頭の中で、焦って膨らんだ忙しさが、吹っ飛んだ。


 新しくココアを入れて一緒に飲もうとサエさんの横に持っていった。すると今まで寝ていたフユさん(仮名)が、サエさんと私のやりとりを見ながら微笑んでいる。まるで「んだんだ、座れ座れ、休め、休め」と言ってるようだ。そこで3人で身も心も温まるココアを飲んだ。フユさんは「うんめな、うんめな」と笑顔だった。サエさんはいつも「風吹いている、吹かせている」とよく言うので、私が「今日は天気がいいですね。やっと風もやみましたね。」とバタバタしていたイメージをあてて言った。そしたら、「もう風はやみましたよ」と笑顔で答えてくれた。
 休んだ時間は10分もなかったが印象的ないい時間になった。まして、ハッパをかける役のサエさんにこんな感じで助けてもらえるとは驚きだった。
 利用者はよく見ている。そして助け舟を出してくれる。早番は作業が多いけど、そんな時は、利用者に支えてもらいながらやっていくしかないと思った。1人で抱え込まず、見守ってもらいながらやれるんだと改めて気付いた。苦しいくらい忙しかったなかで、サエさんのその時の態度はありがたかったし、そこで訪れた時間はすごく貴重だった。目が回るくらい忙しいからこそ、少し座ってココアでも飲んだらいいのだ。サエさんチョンチョンのサインありがとう。
 
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