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フユさんとの年越し【2012.01】

特別養護老人ホーム 中屋 なつき
 

 以前オーストラリアで経験した年越しは、ファミリーやフレンドが集まってクリスマスやニューイヤーのパーティーするのだが、文化的な“時節”や“節目”は感じられず、大騒ぎするだけでどこか物足りなさを感じたのを思い出す。日本では、クリスマスが終わると一気にお正月ムードになり、新年を迎える。餅つきをし、大掃除をして家中を清め、しめ縄を飾る。準備が進んでくるほどに「あぁ、今年もまた一年が終わるのかぁ」という実感が湧いてくる。子どもも大晦日だけは夜更かしが許されて、こたつを囲んでみかんを食べながら紅白歌合戦を鑑賞。いろいろあった一年だったなぁ…と振り返りながら年越しそばを味わう。年が明けると神社に初詣に行き、親戚の家をまわって新年のご挨拶。お年玉をもらって大人よりも金持ちになった気分。書き初めをして新年の抱負を掲げ、あとは宿題に追われつつもお雑煮など食べながら寝正月を決め込んでのらりくらり…。
 こうした子供の頃から親兄弟と過ごしてきたお正月は、今は銀河の里で“じいちゃんばあちゃんとの正月”になった。しめ縄を飾り付けるのは「不浄のおなごではなく男さんの仕事」と言われたり、おせち料理は「まめまめしく稼ぐための黒豆、縁起の良いよろこんぶ、腰が曲がるまで長生きするようにと海老」…等々、料理にまつわるいわれが語られる。一緒に年賀状を書き、遠くに暮らす娘さんや息子さんに「元気で、好きにやって暮らせ」とのメッセージを記す姿に感動。神社の神様よりもリアリティのある生き神様たちとの初詣。権現舞の獅子よりも神々しい雄叫び?!…etc. 毎年いろんな物語がうまれる。今年で三度目となる特養の年末年始、今年はどんな年越しになるのか楽しみにしていた。


 クリスマスは田村さんが酒井さんと初ユニットを組んでデビューした。おまけに利用者さんからのリクエストで急遽決まった“冬さんさ”も加わり盛会となった。日常ほとんど眠りの世界にいて、たまにこちらに帰ってきて話をしてくれる感じのフユさん(仮名)も、クリスマス会では音楽に合わせてヒラヒラと手を揺らしていた。さんさのかけ声「えんやっさ、えんやっさ〜♪」に「よいっとな〜、よいっとな♪」とちょっと場違いな独自のリズムを刻んでいる!そしてギターやエレクトンの演奏が一曲終わるごとに「いいじょ〜!」と満面の笑みで合いの手を入れてくれる!いつも眠りの世界に生きているフユさんが、この日は主役でしっかりこちらにいて参加してくれたのが嬉しい。部屋に帰って横になってもウトウト眠りながら、手だけはヒラヒラと踊り続けていた。
 朝、起こすと「おかげさんだった〜、家の中、掃除してもらったった〜」と夢の話を語ってくれたり、リビングにしめ縄飾りがかけられると一番に手を合わせたり、フユさんが正月気分を盛り上げてくれる。 大晦日の夜は、ほくと,すばるの2ユニット合同で夜更 かしの計画だった。こたつを並べ、お菓子やお酒も準備して、紅白歌合戦を見ながら、利用者もスタッフもまったりする。テレビの歌に食い入って見ている祥子さん(仮名)。目の前のお菓子を片っ端から食べているカヨさん(仮名)。普段は歌など歌う人ではない茂樹さん(仮名)がニコニコで「北国の春」を熱唱。寝たきりでいつもあっちの世界にいるような葵さん(仮名)は、さぶちゃんで拳が上がり、津軽海峡で一筋の涙を流した。「我が家のこたつでくつろいでます」といった雰囲気のミズホさん(仮名)が「先生、今日はうちに泊まってってくださいねぇ」と誘ってくれたり。それぞれがそれぞれに“らしさ”満開だ。
 フユさんとフキさん(仮名)はソファに並んで座っている。二人は隣同士別のユニットにいるのだが、フキさんは普段から「フユちゃん、可愛い」と慕っている。そんなツーショットをほほえましく感じていると、例のごとくウトウト気味なフユさんが、お酒も呑んでいないのに「家さ行っていっぺぇ呑んできた〜♪」と酔った陽気な雰囲気を語る。フキさんも肩にもたれかかってくるフユさんを受け止めて「とってもニコニコだよ〜」と笑っている。時々ふわぁっと目を開け、「どこでも好きなところさ連れて行け〜」とか「好きなもの、なんでもけ〜(食べろ)」などと語るフユさんに、「そんだそんだ、どっこさでも連れてけ〜♪」「なぁに食ったった?うめかったぞ〜い♪」と柔らかく返すフキさん。そう言われたフユさんも「うわっはははぁ〜い♪」と大笑いするので、傍らにいる私もフキさんもすごぉく幸せな気持ちになる。とうとう三人で大笑いになった。テレビを見ていた祥子さんやカナさん(仮名)も「何事?」とこちらを見る。「あ〜あ、笑った笑った(涙)」とフキさん、「んだなぁ、好きなもの、腹いっぺぇ食ったっくらい、笑ったなぁ」とフユさん。そのセリフにまたもや幸せな笑いが込み上げる三人だった。
 カウントダウンの頃にはすっかり寝入ってしまったフユさんを、最後まで肩に抱いてくれていたフキさんに「今年もよろしくね」と新年のご挨拶。年越しを大笑いで一緒に過ごせてよかったねと、枕元でフユさんの寝顔を見ながらしみじみ思う。大変なことがあった一年だったけど、こうやって利用者さんに支えられて里の毎日がある…、今年も一日いちにちを大切にして、生まれてくる物語を紡いでいこう…、「フユさん、ありがとね。」と語りかけると、うわごとで「…ありがとや〜」が返ってきた。


 
急遽演奏した“冬のさんさ”


里の秋!?



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