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3年越しの賑やかな里の冬 【2012.01】

みつさんち支援員 日向 菜採
 

 グループホームみつさんちに住んで3年目の広一さん(仮名)は、50代で仕事真面目なユーモアのある性格。実家が農家なので、畑や田んぼの作業が身についていて頼りになる存在だ。入居理由は特殊で、治療上の環境調整のためだった。入居当初から、気持ちに何か抱えている様子で、細かいことを見つけては文句をつけ、理不尽なことで怒りを向けられた。私が就労支援事業所ワークステージに新卒で赴任すると同時に、広一さんが入居したのでいわば同期だが、担当の私に向けられる文句や苦情、長々と続く言い訳などを受け止めるのはかなり苦しかった。仕事は真面目で、人当たりも良いのだが、どこか影を抱えているようなところを感じた。飲酒して入院を繰り返しながら、それでも徐々に感触が変化していき、特に昨年の夏あたりからは、苛立つこともほとんどなくなり、本来の人柄なのか、穏やかなでやわらかい雰囲気が出てきた。通院に付き添うと「お礼にごちそうしたい」とお寿司を食べさせてくれたりして、以前は「診断結果を本人以外が知るのは法律違反だ」などと絡んでいたことを思うと別人のようだ。あれこれゴタゴタを重ねながら生きてきた3年の月日によって関係が変化したと信じたい。
 広一さんは、2年連続で秋の収穫後に飲酒して入院になっていたので、里にきて始めての年越しを迎える。本人は「なんたって初めての12月なんでね」とおちゃらけながら、どこか嬉しそうで「忘年会をやりたい」と提案して張り切った。
 12月中旬、誕生日会があり、グループホームみつさんちでパーティーを開いた。ワークステージ以外に事務スタッフも参加し20人も集まった。広一さんは密かに「誕生日おめでとう」という看板をつくっていた。色鉛筆でカラフルに仕上げた看板は、広一さんの隠れた才能が発揮されていた。2週間かけてカレンダーの裏紙に描いたという力作だった。会は広一さんが進行し、さらには自慢の歌声で一曲披露し盛りあげてくれた。3年目にして、大活躍の広一さんの一面だった。 広一さんの提案の忘年会は、居酒屋で宴会の後、ボーリングをしようということになった。さらに施設長からの提案で「しめはラーメンかアイス」となり、なんと3次会コースまである、フルコースの忘年会となった。
 忘年会も職員を含め20数名の大宴会になった。ほとんどソフトドリンクのノンアルコールなのだが、最初からみんな気分上々で、完全な酔っぱらいのような盛り上がりだったのがすごい。用意されたご馳走もかなりの量だったが、あっという間になくなってしまった。物足りない胃袋には、3次会のラーメンに期待してもらって、ボーリング場へ向かう。ボーリングはいつも盛り上がって笑い転げる。ピンが倒れる前からガッツポーズをしているキヨくん、自分の足の真横にドスンとボールを落とす危険な投球ホームのナベちゃんなど、特徴が激しすぎで面白い。そんななか、やはり広一さんは格が違った。今回のゲームでは、スコアは軽く180!もちろん誰もそのスコアに及ばず、ぶっちぎりで優勝だった。
 昨年の暮れの誕生日会も忘年会も、広一さんが企画の中心にいたが、どこか広一さんのためのイベントだったように私には思える。初めての冬を乗り越えられるのか私も心配だったが、広一さん自身がどこかで切り開いて行ったように感じる。また他の利用者も広一さんを後押ししてくれていたように思う。
 豪雪地域出身の広一さんは、「夏は苦手だが雪かきは任せろ」と毎年言うのだが、ふた冬は入院していて雪かきはできなかった。今年は、大雪だった昨年、一昨年と打って変わって雪が少なく、まだ広一さんの雪かきの活躍は見ていない。どこか雪を楽しみにしている私がいる。



広一さん力作の特大年賀状


自慢の声が響く


来年の抱負を皆の前で


やったー!スペアだ〜!

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