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ミラクルデイサービス【2011.12】

デイサービス 米澤 里美
 

 認知症専門の里のデイサービスには、極めて個性豊かな方々が集まる。その日のスタッフや利用者さんの顔ぶれによって、雰囲気も違えば、起こってくることも違う。お互いの個性のぶつかり合いで、どんな色合いになるのか、その場に居合わせてみなければわからない、即興の演劇舞台に立っているような不思議な感覚がある。
 里のデイサービスを利用して2ヶ月程の辰也さん(仮名)は、利用前の申し送りではデイサービスに悪いイメージを持っていて利用拒否が強いと言われていた。そこで相談して、送迎時デイサービスとは言わず、ドライブで音楽の聴けるところへお誘いする、ということにした。送迎の車の中で「あなたは、私に何の用ですか?」と何度か質問されたが、「ドライブです」「音楽を聴く集まりがあるんです」などと答えながらやってきた。初日、特養の交流ホールでレコードを聴いたり、ちょうど50人の見学者に遭遇して、一緒に混ざってコーヒーを飲んだりしながら、何とか一日目を過ごした。
 お話ししているうちに辰也さんは、音楽愛好家で、喫茶店の雰囲気やコーヒーが大好きな方だとわかってきた。特養の交流ホールの洒落た雰囲気や、挽きたてのコーヒー、理事長のレコードプレーヤーで聴くクラッシックやジャズのアナログレコードは辰也さんに気に入ってもらえたようだった。おかげでそれから毎週、休みなくデイサービスに通ってくれている。当然イメージは、「喫茶店」や「集う場所」のようで、年配のスタッフを「支配人」と呼んでいる。スタッフが施設っぽく振舞うとそのイメージが総崩れになるので、給食は定食、入浴は温泉、といったぐあいに微妙にニュアンスを変えているがそれがまた里のデイらしくていい。
 入浴はすんなりとはいかなかった。半そで短パンの入浴介助姿を見ると「勘弁してください」となるので、男性スタッフが温泉気分で一緒に裸になって風呂に浸かったりしていた。ところが先日、女性スタッフが入浴介助になった。無理だったときは男性スタッフに応援をたのんでいたが、そろそろ2ヶ月なので、何とか女性スタッフでも入れないものかと、あえて挑戦となった。ところが心配をよそに、何と辰也さん自ら脱衣場に入って、「おしょすぅ(恥ずかしい)けれど、入ってもいいのかな?」と声をかけてくれた。驚いて「どうぞ、どうぞ。」と背中も頭も2回ずつ洗ったのだった。
 その日の入浴介助の田中さん及川さんは、私のイメージでは妖精っぽい感じで、ガンガンいくタイプではなく、起こることを受け入れ、守ってくれる、柔らかくて芯の強い感じの二人だ。そんな二人の妖精の世界に吸い込まれたのか、とても不思議な瞬間だった。さらに、ついさっきまで「こんな所来ねばいがった。」「おもしろい事なんてひとつもねぇ」と険しく厳しい表情と口調だった政雄さん(仮名)までもが、笑顔で辰也さんと湯船に浸かっている。こんなミラクルが起こるときは竜宮城のように時間が止まる。現実に戻って気がつくと、すでに15時半。16時には送迎の出発時間だ。そのとき一番入浴してもらいたいのに入浴拒否の強いエツさん(仮名)がまだだった。エツさんは、介護者のペースで誘うと、嫌がり、スタッフは頭からお湯をかけられることもしょっちゅうだ。しかも入ると長風呂で一時間もかかったりすることがある。誘うとなると、ある程度の覚悟が必要。今日は無理かも。家族さんに謝るしかないかとあきらめかけた。ところが、またまたミラクル。二人は柔らかい雰囲気でねばって誘い、エツさんは入浴できた。あと30分という都合を背負いながらも、全く強引さはない。耳の聞こえないエツさんのタイミングを待って手を添え、絶妙な間合いと柔らかな雰囲気で入浴を終了。16時にはみんな送迎車に乗り込み出発した。なんという奇跡!一体、二人はどんな魔法を使ったのだろうと後になっても不思議で仕方がない。
 決してバタバタせず、あくまで穏やかな雰囲気と柔らかい感じ。妖精パワーが炸裂しても、感じさせるオーラはたなびくそよ風。里の妖精達の醸し出す不思議な世界が、他のデイサービスで受け入れてもらえなかったり断られたり、また本人の拒否がある個性の強すぎる人たちを包み込んで、ミラクルなエピソードを日々生み出している。里のデイサービスでは、実にダイナミックでときめく、不思議な時間が流れている。
 
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