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夢の宝塚へ!【2011.12】

特別養護老人ホーム 田村 成美
 

 「若いころ、宝塚に入りたかったんだよ〜。」6月の中頃、入浴中に祥子さん(仮名)が昔の夢を私に語ってくれた。「踊りも歌も大好きで…でも家助けなきゃいけなかったから…悔しいよ〜。ほんとに。やりたいことできなかったから。」と悔しそうに話す。「今からでも遅くないかも!」と言う私に「でもね、一回でいいから見に行きたいよ。行けたら死んでもいい〜 (笑)」それくらい強い憧れを祥子さんは抱いていた“宝塚”。それが祥子さんの口から出たのは初めてで、私は語ってくれたことがすごく嬉しかったが、かけ離れた世界にイメージが持てていなかった。でもこの時から祥子さんと私たちは宝塚へ想いを馳せることになった。
 祥子さんはすごく働き者だ。炎天下でも畑に草取りにでる。畑もやり家事もやる…とにかく何でもできるユニットすばるのお母さん的な存在。しっかり者の祥子さんではあるが、チョコパフェとバラ好きで、「永遠の17歳!」など不思議な感じもある。誕生日を迎え、みんなに年を聞かれると「15歳になったよ〜(笑)」と冗談を言ったりもした。頻繁に宝塚や、昔の恋の話がでてくるようになり、理事長は「祥子さんは思春期を生きているのかもね」と言った。私はそれか…!!と脳天を打たれた。汗まみれになりながら稼ぐ青春時代の祥子さんの心の内には、恋をしたい!とか、かわいい服を着たい!とか数えきれないくらいやりたいことがあったのにそれは実現できなかった…それを今生きているのかもしれない。そしてその象徴が宝塚。理事長は「是非宝塚に行ったらいい」と言ってくれた。するとちょうど北上のさくらホールで宝塚の全国ツアーがあることを祥子さんが新聞で発見した。これにも驚いた。さらに、宝塚ファンのワークステージ利用者のみずえちゃん(仮名)と出会うことになる。みずえちゃんは、祥子さんと同じように夢みる女の子で、宝塚オタクである。宝塚を語るみずえちゃんの目はキラキラだ。そんなみずえちゃんとの初対話。「わたし全然分からないから教えてちょうだいね〜。(笑)」といいながら祥子さんは楽しそうにみずえちゃんの宝塚のマシンガントークを聞いていた。
 ある日、みずえちゃんがどこの席というので「A席だよ!」と応えると「えぇ〜!?私なんかS席だよ〜♪」得意気に自慢したり、また別の日は「当日の服装はどうする?」に「う〜ん…こうふわふわの…笑(ゼスチャーつき)」「宝塚顔負けの真っ赤なドレスを着て行こう!(笑)」とかそんなやりとりで公演が近づくにつれて盛り上がっていった。祥子さんもわたしもワクワクして、祥子さんの部屋の電気が消えるのも遅くなっていった。 前日にタカラジェンヌの唄とトークの集いがあることを一週間ほど前に知り、これは行かねば!と整理券を取る。トークショーの日。私服でナチュラルメイクなのに、遠くからでもスターかきた!とわかってしまう、すごいオーラ!私は、思わずみずえちゃんと手を取り、わ〜きゃ〜☆する。唄とトークだけで私はやられてしまい、すっかりファンになってしまった。明日はどうなるんだろう…とその日は興奮であまり寝られなかった。祥子さんの夢がついに叶うことにも興奮していた。私はきっと祥子さんと同じ気持ちだった。
 そして当日!祥子さんも私と祥子さんの居室担当の齋藤さんと3人でビシッと決めて出かけた。会場は大勢の人で賑わっていた。真っ先にパンフレットを買う。席に着くと「…つ、ついに来たね。」とか「緊張するな〜」といいながら、パンフレットを見たりして開演を待った。 第一部は「小さな花がひらいた」という江戸時代のミュージカルであった。一気に引き込まれ、祥子さんは見入っていた。
 一部が終わり、「すごいね…」と私は言葉にならない。「いや〜…本当に。まさか本当に来られると思わなかったよ〜。」とこの場にいることを噛みしめている祥子さん。「これでは若い時見たもんなら、誰もが憧れるよな〜(笑)」と昔を思い出しているようだった。
 第二部「ル・ポァゾン〜愛の媚薬U〜」 これぞ宝塚!!すごいど迫力で煌びやかで、可憐で、光すごくてまぶしくて、羽もすごく…。会場に響き渡る低音の唄声と、一見違うオーラを感じ、祥子さんと私はバッ!と双眼鏡を手にした。真っ赤な衣装に身を包んだ花組トップの蘭寿トムがそこにはいた。私たちは拍手した。会場がわ〜!となる。華やかな場面から、また別の華やかな場面へ代わる替わるで、第2部は夢見心地のまま終わってしまった。ものすごい拍手で緞帳が降り終演した。
 「言っちゃなんだけどやっぱり女役よりも男役のほうがすごいね〜!声もしぐさも全部!声がいいんだな〜本当に…。」と感動した!と祥子さん。余韻に浸りながら「長生きしてていがった〜。見ないままあの世さ行かねばないなと思ってたからさ。本当にありがたいよ〜。」と言う。「いやいやこちらこそ、祥子さんと見に来られなかったら、私、一生こんな素晴らしいものに出会ってなかったよ。連れてきてくれてありがとう。」と祥子さんに感謝した。話を終え「さて行くか!」と席を立った時にはほとんどの人がすでに会場を出ていた。感動で3日分の体力を使った感じであった。
 里に帰ってきて、玄関でむかえてくれた、クニエさん(仮名)、中屋さん、ほなみさんに感想を聞かれ、祥子さんは「いがったよ〜!レビューもみられて!」とラインダンスをやってみせて、「30歳若返って帰ってきました!」と目をキラキラさせて話していた。まるで少女の祥子さんがそこにいた。
 宝塚を通じて、新たな祥子さんと出会うことができた。そして私も感動した。『みずえちゃんと祥子さん』の新しい、ユニークな出会いもあった。人と人は何がきっかけで出会うか分からないが、誰か (何か)と出会えることができる。いつか兵庫の宝塚へいくぞ!!  
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