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あなたに食べてほしくて【2011.12】

厨房 小野寺 祥
 

 月1回の行事食。このビックイベントに向けて厨房は何度も試作を重ね、その日を迎える。 そんな行事食の中ではいろんな物語が生まれる。普段なかなか食の進まない利用者さんが、「そんなに食べて大丈夫!?」とみんなから心配されるほど食べてくれたり、「明日の寿司のために食べるの控えているの」と前日から食事をセーブしている利用者さんがいたり・・・。そんなことから、行事食って厨房が考えている以上になにか大きなものが動いているのではないかと、感じるようになった。
 8月、オリオンの邦恵さん(仮名)は夏の暑さから食の進まない日々が続いていた。そこで邦恵さんの大好きなお寿司を昼食と夕食時に毎日2カンずつ出した。握りたてのお寿司が出ると「今日はお寿司なのねぇー!!」と目をキラキラ輝かせて食べてくれる邦恵さん。そんな日々が1か月半ほど続き、猛暑を乗り越えることができた。そんなことから、9月の敬老会はユニットで寿司を握りたい!!と思い、実現することができた。その日は、どんな料理もお寿司には勝てない!と思うほど、みんな箸が進む進む進む・・・「えびをください。次もえびでお願いします!!」「こんなに食ったってわかねなぁー」と言葉も弾む。
 そんな敬老会。私がもう一つ力を入れたのはソフト食、そしてデザート。それは、「すばる」のクニエさん(仮名)に食べてほしかったからだ。どんなものだったら食べてくれるんだろ・・・目がパッチリ開いて自分の手で食べてくれるような食事を考えたい。それに行事食が重なった。行事食でなにか生まれるかもしれない。じゃがいもと甘いものが大好きなクニエさん。そんなことから9月はティラミスをつくることにした。初めて作るティラミスに苦戦し試作をくり返す。予定日ぎりぎりでレシピが完成した。
 行事食当日はお寿司のソフト食作りに力を入れた。一般にソフト食は形がなく、ペースト状にしたものにとろみを付けた程度。利用者のお見舞いで行った病院で出されたソフト食に私は唖然とした。こんなの「食べたい!」なんて思えない。食べやすさは大切でそれは欠かせないことだが、食感や見た目のおいしさもかなり大事だ。見て「食べたい」という気持ちにならないとお腹もすかないし、ただ食べさせられているという感じ。そんなソフト食からの脱出として、2年前ほどから厨房はソフト食の研究を続けてきて、その挑戦は現在も続いている。今回の寿司も事前からイメージトレーニングと仕込みを進め、当日は「これ、私が作ってきたソフト食の中で一番のできだ」と思えるほどのものができた。
 その自信作はクニエさんに伝わるだろうか。ドキドキしながら届ける。居室から出てきたクニエさん。目をぱっちり開けて!!ばっちりお寿司を見てくれている!なんとクニエさんから口を開けてくれて、どんどん食べてくれるではないか、「やったぁ、いい感じ!!」そしてさらに驚いたのはデザートのティラミス。自分で手を伸ばして食べてくれる。隣のほなみさんの分も食べてしまい「これ私のなのにぃ!!」と泣き顔。スタッフみんなが驚くほど、どんどん口に吸いこまれていくティラミス。昼食で一口サイズのものを9つも食べてくれた。
 考えに考えて作った方としては感謝と感動だ。その感動を積み上げようと、さらに、「ばばちゃんのみそぱん」「ばばちゃんのミシソワーズ」「ばばちゃんの芋もち」とあなたのための食事つくりのイメージは次々と湧いてくる。
 そして11月の行事食では里のさつま芋を使ったスイートポテトに挑戦した。これも試作を続ける日々。さつま芋の水分の違いに合わせて他の分量を調節するため、作るたびに味や舌触りが違う。かたすぎても、のどごしが悪くなるし、柔らかすぎでも手づかみで食べることができない。試作したものを何度かクニエさんに食べてもらい、スイートポテトを完成させることができた。当日はクニエさんはもちろん、みんなどんどん手が伸びてあっという間に完食!!他にも、旬のいくらと鮭を使った親子丼。ワークステージは豚丼との選択メニューにした。副菜にはかぶの釜蒸し。かぶ1つ1つを六角形の形になるように皮をむき、中身をくり抜き、そこにエビしんじょうを入れ蒸しあげた。これは、かぶもとろけるほどの柔らかさ。刻みも、ソフトもみんな同じものを提供することができた。いくらと鮭の親子丼も大好評!!「毎日このメニューがいい」「最高だったぁ!」と言ってくれた。


 あなたに食べてほしい。そんな思いは普段みんなが生活する中でいつも思っていることで、そこから料理は生まれる。そんな1人1人への食事つくりができるのがここ、里だ。みんな好きなもの、嫌いな物は違うし、食が進まないときだってある。そんなの当り前なことで、みんなが毎日同じ食事を食べたって面白くない。
 そんな時に、「私のために」つくった、寿司、ラーメン、茶碗蒸し、ひっつみ・・・。「こんなの作ったら食べてくれるかな?喜んでくれるかな?」って思いながらつくる食事って本当に楽しい。そこから私とあなたの関係が始まり、絆が生まれてくるからだ。
 これから、クリスマス、正月と続いてくる。「今月はなにをやろう?」と今からわくわくしながら準備を進めている。乞う、ご期待!  
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