トップページ > あまのがわ通信 > 2011年12月号 めざせしっとりパウンドケーキへ!!

めざせしっとりパウンドケーキへ!!【2011.12】

厨房 畑中 美紗
 

 厨房には、亜美ちゃん(仮名)という、お菓子作りが大好きなワークステージの利用者がいる。毎週木曜日には亜美ちゃんのおやつが特養に出される。自分で作りたいレシピをインターネットなどで調べて、提案してくれる。たまに聞いたことのないような高価な材料のレシピを持ってきて私たちを困惑させたりするが、そのやる気をいつも応援したくなる。
 そんな亜美ちゃんがパウンドケーキ作りにはまった。自分で勉強を始めた通信教育のレシピに載っていたパウンドケーキだった。中に何も入らないプレーンのものだったが、素朴でおいしかった。厨房ではおやつに困った時にはパウンドケーキ!とそのレシピを愛用していた。ところがある時見学者にコーヒーセットで出したところ、理事長から「ひどい。出せるものじゃない」と厳しいひと言。分量の計り間違い?混ぜ方?おいしかったのに・・と懲りずに、その次の見学者にもまたパウンドケーキを作って出してみた。レシピ通り、計量も混ぜ方も完ぺきのはず!!しかし理事長、施設長だけでなくいろんな人からちょっと厳しい・・といわれてしまった。
 厨房スタッフは負けず嫌いの集まり、そこで火がついた。いろいろパウンドケーキについて研究が始まった。常温でも1週間はもつこと、作ってから2週間くらいがなじんでおいしいことなどいろいろ分かり、焼きたてがおいしい、焼きあがったら日を置かずに食べなければ悪くなる、ということしか考えてなかった私たちは驚かされた。また、材料をただ混ぜればよいというわけではなく、混ぜにコツがいることなど学んだ。よくお菓子作りの本には、「白っぽくクリーム状になるまでよく混ぜる」とか「切るように混ぜる」とかレシピで目にするが、本当にその通りで、やってみると生地の仕上がりからまったく別物だった。
 ただの中身のないパウンドケーキで勝負するのは厳しい、中に何か入れて風味を出したい、と思っていた時に亜美ちゃんがオレンジピールのパウンドケーキを作ってみたい、という事で手作りのパウンドケーキ作りがはじまった。給食に出したオレンジの皮の余りを使ってピール作りからの挑戦。厨房でもピールを作るのは初めてだったのだが、亜美ちゃんの勢いに、よしやってみよう、という気持ちにさせられ、時間をかけて手作りピールが完成。特養のおやつでだしてみて、なかなかおいしかったのでどうだ!!と言わんばかりに理事長のところへ持っていくと前よりは良い評価!
 私たちの奮闘に理事長が鎌倉でおいしいオレンジのパウンドケーキ見つけたと買ってきてくれた。試食しておどろいた。全然違う。このしっとり感はなんだ?パウンドケーキの奥の深さに打ちのめされた。追求していくにつれてパウンドケーキにのめり込む。鎌倉のパウンドケーキを亜美ちゃんにも食べさせようと持っていくと、負けず嫌いの彼女は、「(私のパウンドケーキを)まずいなんて文句言ったのは誰よ!!私は絶対それ食べないからね!!」ときた。勉強だからと無理やり食べさせるが、怒ったまま。でもどこか気になる感じだった。
 それから亜美ちゃんも巻きこんで鎌倉のパウンドケーキに追いつけ追い越せと、あれこれ試作を重ねて、やっと味はいいんじゃない!!といってもらえた。やったぞ!!あとはしっとり感だと、洋酒やシロップを使って、何度も試作を続け、やっと納得できるオレンジパウンドケーキが完成した。
 さらに音楽祭をめざして、旬のぶどうやりんごでも挑戦していった。リンゴは里の紅玉で。ぶどうは地元のぶどう園のもの。コンポートにしてみたり煮てみたり、生で入れてみたりと奮闘した。結局リンゴは洋酒を入れ、スライスしたリンゴをコンポート風にして、中には蜜りんごを入れる、それぞれのいいとこ取りで路線は決まった。問題はぶどうだった。干し葡萄のレシピは探せばいくらでも出てくるのに生ブドウのレシピはなかなか見つからなかった。方向性は決まったものの、色合いがどうにかならないか、ブドウから出る水っぽさはどうしたら?など課題はいろいろだった。時期的にもブドウは種なしがなく、ブドウを1粒1粒皮をむいて種をとった。オレンジ・りんごは良かったが、ぶどうがOKがでず、ぶどうは今回は保留にして来年頑張ろうよ、むいたぶどうは冷凍して使おうという話もされたのだが、今この時にあれこれ追及してきた思いが1年後に先延ばしになることがなんだか悔しくなって引き下がれず、今回どうしても出したいんだと、半泣きでお願いし、なんとか3種類のパウンドケーキを完成させた。
 音楽祭前日は、最後の仕上げで75本全部を真空袋から出し、ナパージュを塗る作業。苦労を重ねて、明日これが売れるんだと思うとすごくワクワクした。私たちがパウンドケーキの仕上げをしている間に戸来さんが和紙を買ってきてくれ、事務所で、戸来さん、中屋さんと平野さんでパッケージづくりをしていてくれ、みんなでそれを流れ作業で包みながら、今までの想いがこみ上げてきて泣きそうになるくらいうれしかった。中屋さんと平野さんは早番だったのにもかかわらず、深夜1時過ぎまで一緒に手伝ってくれ、みんなの力強いバックアップにもすごく感激して心がじーんとした。頑張って作ったパウンドケーキがさらに商品らしくなった。
 当日、パウンドケーキは大好評!!75本完売した。音楽祭が終了してからも「もうないの?!残念」とい声がたくさんあってうれしかった。苦労したぶどうのパウンドケーキも珍しいと好評でほっとした。自分達が愛情を込めて作ったものがお客さんの口に入るところまでを見る。ふだん給食調理で自分達の作ったものをユニットで一緒に食べる、という同じような感じではあるが、今回はいつもよりもダイレクトにそれを感じることができ、すごくわくわくした時間だった。
 私自身、里に来て4年目。1年目から今までずっと雅義君(仮名)とのプリン作り、亜美ちゃんとのお菓子作りに携わっているが、それぞれにこだわりというかプライド?譲れないものを二人ともしっかり持っている。作って終わりではなくて雅義君はその日販売した売れ具合だとかを家に帰ってからでも電話で報告してくれたり、亜美ちゃんもその時のお客さんの傾向をしっかりつかんで、クッキーの型さえも子供向けに飛行機にする、などしっかり意識している。厨房メンバーも今回のパウンドケーキ作りを「まずいなんて言わせてたまるか!!」「おいしいパウンドケーキ絶対作ってやる!!」という思いで挑んできた。何かをやりたいと思った時にそういう気持ちって本当に大切だと改めて思った。なんと言っても亜美ちゃんがパウンドケーキ作りにハマっていなかったら、きっとわたしたちもここまでのめり込めなかったと思う。本当にいい経験だった。お菓子作りが苦手でなるべく避けてきたスタッフが一番燃えていたことも不思議で、厨房にとってもいい刺激になった。
 本業の給食もレベルアップしつつ、またお菓子作りにも挑戦していきたい。
 
〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail: