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田んぼとなるみ、お米とミエさん【2011.11】

特別養護老人ホーム 田村 成美
 

 新人に任せてもらった無農薬のもち米田んぼだったが、6月、7月の除草が間に合わず、雑草がこれでもか!というくらい伸びてしまった。おまけに10月の稲刈りは田植えよりぬかる田で、足を泥にとられる泥んこの収穫となった。田んぼ作りは、残念にも大失敗に終わった。
 そんな田んぼでもどうしても稲刈りに一緒に行きたい人がいた。ミエさん(仮名)だ。ミエさんは小学校の先生だったということで、そのせいか田んぼや畑の作業は似つかわしくないイメージの人だ。先月、私がユニット「こと」に移動になってまもなく、私とミエさんはマルカンデパート出かける機会があった。6階のエレベーターを出るとすぐ、すごい数のサンプルが並んだ大きなディスプレイがある。その前に立ち、わたしは心が躍った。(私は盛岡出身でマルカン食堂初体験。)どれにしようかな…♪と迷うわたし。横にいたミエさんは、唐揚げ定食の食品サンプルに目を奪われていた。(この時点ではまさかなぁ…と思っていた。)私も含め、それぞれがすごく悩み、10分ほど立ち尽くしていただろうか。迷い抜いてみんなやっと決まりつつあった。私はミエさんに「どう、決まった?」ときいた。なんとミエさん、「・・・唐揚げ定食」と言うではないか。
  昼食を食べでまもなくのマルカンドライブだったので、おやつを食べに!という感覚だったのだがここで定食ですか。「えぇっー!!」とその場にいたスタッフ全員が声をあげた。チョコパフェとかプリンだとか、そういうイメージがひっくり返った。ミエさんはダイエッターなので「ミエさん、甘いものもあるよ。」と勧めてみると一瞬「そうかなぁ〜」と少し心が揺れたような様子はみせたものの、やはり「これでいい!」と再び唐揚げ定食を指差した。
  テーブルについてすぐ、ミエさんは割り箸を手にとりパキッ!ときれいに割った。食べる準備は万端!注文の品はなんと一番最初に唐揚げ定食が到着した。ごはんのふたを開けるとふつうの1.5倍程のごはんがおいしそうに盛られている。(店員さんに少なめにとお願いしたのに…涙)ごはんを見るミエさんの目は、とてもキラキラしていた。大きな唐揚げにかぶりつく、そして「しねぇ(かたい)・・・」とひと言。それでも黙々と食べるミエさん。唐揚げは残したものの、ごはんは何と完食!このとき、ごはんを食べるミエさんのとてもいい顔が印象的だった。私はその顔を見ながら、ミエさんはご飯が好きなんだとすっかり納得してしまった。私も食べることが好きなので、親近感も湧いた。その時私は、そんなご飯の好きなミエさんが稲を刈っている姿をみたいと思った。ご飯の好きなミエさんが、お米に囲まれているのを見たかった。(もち米の田んぼだったが)
 稲刈りには、一週間ほど前から誘った。その時は「おらできねえもん…」と作業はしないで見学ならばという感じだった。稲刈り当日、誘ってみると「はぁ」とニコッとしてうなずく。完全装備で一緒に田んぼへ向かう!田んぼは上記のとおりで大変ぬかるんでいて、車いすが入れる状況ではなかった。そんな田んぼを目の前にしても、”お米とミエさん”が私の中では強くて、どうしても一緒に収穫したい!という思いが募る。そしてミエさんもやる気満々だった。そこでミエさんにも手が届くよう、コンパネを特設してもらった。
  「おらやったことねぇども…」と言いながらも軍手をして、しっかりと鎌を持ち、稲に手をかけた。慣れない手つきでギリギリと刈ろうとする。頑張るのだがなかなか刈れず、私が稲を持ち、ミエさんは鎌を引いて刈るのに必死。「それ!それ!」と掛け声をかけながら頑張る。やっとのことでひと株を刈った。長期戦だったのでミエさん疲れたのかな?と思ったが、休みもせず次の株に手をかける!私もよしとばかりふた株目に挑戦、同じようにギリギリと格闘しながら刈り上げると、二人で顔を見合わせて笑った。なにか繋がった瞬間!この感じが嬉しい。「あぁ、今まで大変だったけどやってきてよかったなぁ。」と心から思った。稲刈りを終えると、我々2人は泥んこになっていた。田んぼは最悪だったけど、ミエさんとの稲刈りは最高に楽しかった。
  代掻き、田植え機、畔ぬり、除草機がけ、耕運機等、どれも私の20年の人生で初の体験だった。日焼けして黒くなって、将来シミが…とか気にしながら取り組んだ。社会人一年生の新人の私は毎日慣れない仕事でへとへと…その上、田んぼ作業でさらにへとへと。汗まみれで泥んこになる作業に楽しい面もあったが、正直かなりしんどかった。
  それでも作業を終えて汗をかきながら泥んこでユニットに帰ってくる私を、「すばる」の祥子さん(仮名)、フキさん(仮名)をはじめみんなが向かえてくれた。「また〜そったにお尻汚して!(笑)今日は何やったの?」とか「昔はおらもやったった〜」と昔の田んぼの話をしてくれて盛り上がった。
 そうやって、みんなに支えてもらってやってこられたと思う。そして稲刈りは、先月部署移動したユニット「こと」で、最初に出会ったお米が大好きなミエさんと感動的な作業となった。とれたもち米で、ミエさんと餅つきがしたい。餅を前にして、ミエさんどんな顔するのかなと楽しみだ。
 この半年、稲の成長を見て季節が変わっていくのを感じた。稲を作るのも一人じゃできない。こびる(おやつ)が届くのが大変ありがたく、こびるを作ってくれる人にも、持ってきてくれる人にも支えられているということも感じた。自分達で作ったお米を自分たちで食べるという楽しみもある。小学校以来かな?思いっきり泥んこにもなった。学生時代と全く違って銀河の里に来てから「生きているんだな。」とよく思う。
 
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