トップページ > あまのがわ通信 > 2011年11月号 守り神に守られて‐デイサービスでの一コマ

守り神に守られて‐デイサービスでの一コマから【2011.11】

デイサービス 太田代 宏子
 

 新規利用者の清さん(仮名)との出会いは、デイサービススタッフにとって衝撃的なものだった。利用初日の午前、名前を尋ねると「き・よ・し」と耳元でささやいてくれ、茶目っ気たっぷりのユーモアセンスあふれる人柄に見えた。ところが、昼食後から脱衣所で他人の服を集めたり、新聞を丸め、壁を叩いたり、人が変わったかのように、行動が荒々しく変化していき、めんくらった。
 ある時、事務所の窓から外へ出ようとするので玄関をすすめるが、言葉はなかなか入らず、女性の靴を履いて、すごい勢いで外へ。追いかける主任の米澤に、「藤沢町へ帰るから。あなたは、あっち!ついてこなくて大丈夫!」と険しい表情で話す。少し離れて歩く米澤。近づくと、「もっと下がって!」と厳しい口調。283号線の真ん中を歩く。「危ないです!」と伝えるが無視されたり、「いいから、わかってる!」と強い言葉を返されたり。状況を察してスタッフの関が車で追いかけて来てくれるが、「あんたが頼んだタクシーでしょ?私は乗らない。あなたが乗りなさい!」と歩き続ける。米澤の制止を聞かず、「よその家だとわかってますから」と高松地区の民家へ。「ごめんくださーい!電鉄タクシー呼んでもらえませんかぁ?」と声をかけている。お家の方に不審をもたれないように配慮し、デイサービスで待機している小田島へ電話し、タクシーを呼ぶ演技をする。清さんは「ありがとうございました」と民家をあとにしたが、「おれの知らない花巻もあるんだなぁ」とうつむいてつぶやく。ドライバーとして働いてきた人であることを意識させられた。「電鉄タクシーでーす!」と小田島が迎えに来ると、車へ乗り込む。行き先が別なのか、「あんたは乗らないで、別で行って」とやはり米澤は乗せてくれず、歩いてデイまで戻らされた。ドライブ中は「おれは、生きるか死ぬかなんだよ」と深刻な話になった。
  こんな衝撃的な出会いをした清さんだったが、今ではデイのムードメーカーでもあり、守り神的な存在である。例えば和夫さん(仮名)が大っ嫌いなお風呂からあがってホールに戻ってくる。「わがねぇーぞぉー!!おら、警察さ言うがらなぁ!!!」その大きな怒りの声はみんなが昼食を食べ始めたホール中に響きわたる。「なに だ?じさま(・・・)のくせにきかなぐなってぇ!!」デイの若 頭、政雄さん(仮名)がすかさずドスのきいた声で反撃に出た。「わがねぇがら、わがねんだべじゃ!!」とヒートアップする和夫さん。「どれ、ぶんなぐってやる!!おれだって土方やってきたんだ!」と勢いに乗る政雄さん。「まずまず、ごはんおいしくなくなるんだからさ」と政雄さんをなだめてくれたのは、清さんだった。政雄さんは自分の席に向き直り、昼食に戻っても「年寄りがきかなくなって・・・」と怒りをくすぶらせていたが、 そこに寄り添って「んだがらなぁ。じさま(・・・)のくせになぁ」 と話を聞いてくれる清さん。昼食後の昼寝も枕を並べて、二人で居てくれた。「おれだって、まだ力あるんだ。ごんぎり頭叩いてやる」と話す政雄さんに、「手だしてしまえば、あんたも悪い人になってしまうんだから」とやさしく言い聞かせてくれる清さんだった。
 大きな声で言い争い始める大人の男の人たちに、私は腰が引ける思いでいた。孫のくらい年の離れた私が、ケンカの仲裁に入ったところで、火に油を注ぐようなものだったと思う。80年生きてきた清さんの言葉の重みや、包みこまれるようなやさしさがほかの利用者さんはもちろん、スタッフまでも守ってくれた。
  清さんをはじめとするデイの守り神的な利用者さんの存在が、私のような未熟なスタッフに居場所や役割を与えてくれる。まだまだ、守り神の力をかしてもらいながらになるが、これからも奇跡の積み重ねのようなデイでの日々の中で、鍛えられて成長させてもらいたいと思う。
 
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