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お盆【2011.09】

特別養護老人ホーム 中屋 なつき

 銀河の里の利用者さん達は、なぜかお盆の前になるといろいろと動きがある。認知症で何月何日か関係ないような人も、いやそういう人に限ってというか、なにかザワザワするようだ。
 8月13日、特養の早番で出勤すると、早朝からガシガシとリビング内を歩いている洋治さん(仮名)が一番に目に入る。「おはようございます」と声をかける。すると「おいっ! どこさ来てら? あっちか、こっちか?!」と真剣な表情で問いつめられた。なんのことだ?と「ん? 何が?」と聞き返すと「死んだ人よ! 来てらか? どこさいる? 来たのか?」というではないか。びっくりしてリビングを見渡す。そうだ、今日は8月13日、お盆だ!「そうだそうだ、来てらんだね! ここにもあっちにも」と返すと「んだか?…んで、いいのだ」今日は夜通し歩いてあまり寝ていないという洋治さんは、そう言うと、安心したかのようにソファに横になってぐっすり眠り込んだ。
 片や、昼も夜もよく眠り、一日中入眠中で、独自の世界を旅しているようなフユさん(仮名)。起床介助で部屋に入ったとたん「帰ってくるのは2〜3人ぐれぇか? ごっつぉ、用意さねばねぇ…」と寝起きの一言。おっ、フユさんもお盆モード! 「そうだね、準備するべしね」と応えると「頼む〜、頼むな」と返事が来た。
 午後、お盆だからリビングにもお花を飾ろう…と、フミさん(仮名)と一緒に花を生けた。もう私もすっかりお盆モードで「帰ってきてほしい人、誰?」とフミさんに聞いてしまった。フミさんは花を見ながら「きれいだねぇ〜、えへへ」と笑っているだけだった。でも生けた花をまじまじと見つめながら、黙って静かに手を合わせた。
 夕食後には迎え火を焚いて、ほくととすばるのみんなで花火もすることになっていた。元住職だった泰三さん(仮名)に声をかける。「今晩、迎え火を焚くんです。お経、お願いしてもいいですか?」最近は言葉数も少なくなり、いっそう寡黙に穏やかに自分のなかに向かって過ごしている泰三さんだが、このときばかりは、こちらが言い終わらないうちにパッと目が合い、ニコリと笑顔で返してくれた。その笑顔に「お盆中は、お勤め、忙しくなりますね」と言うと力強く頷いてくれた。


 今年のお盆は、特養関係者でも初盆を迎える方が数名あった。この10年、銀河の里でお付き合いさせていただいた利用者さんも、鬼籍に入られた方がたくさんおられる。花火のひとつひとつに、その方達の顔が想い浮かび、しばし火を見つめて思い出に浸る。
 リビングの風鈴が鳴ると、先月亡くなったばかりの華さん(仮名)を想って「あぁ、今日は華さん、ずいぶんおしゃべりだ〜」とつぶやくフキさん(仮名)。6月に旦那さんを亡くされたサエさん(仮名)は、何事もなかったかのようにいつもと同じ和室で横になって過ごしていたが、「今日は送り火をしますよ、一緒に見に行きませんか?」と誘ったら「行きません!」ときっぱり断りながら「でも送ります!」とはっきりしたものだった。
 迎え火の後、雨が続いて送り火が延び延びになっていた。「ご先祖様には長期滞在してもらうようだね…」と言っているうちに、とうとう19日になってしまったが、晴れ間をねらって、送り火をしようとみんなで集まった。
 お盆期間中、「お客さん来る〜、留守番さねばねぇ」とか「土産、持たせねばねぇよ」などと寝起きのセリフで、ずっとご先祖様をもてなしていたフユさんは、やっと送り火をするという19日、夕食後、すぐに布団に入って寝てしまった。「ご先祖様に、また来年も来てねって言わなくてもいいの?」と声をかけると、眠そうな目をして「う〜ん…、バイバイって言っておいて…」と言って深い眠りに入ってしまった。なんとも軽い一言だね…とスタッフで笑ってしまったが、一週間、一生懸命おもてなしをしたフユさんだから仕方ないかと思った。


 不思議に思われるかもしれないけど、銀河の里ではこんな異界との近しいやりとりは結構当たり前のように行われている。若いスタッフも違和感なくなじんでくれている。どうしてそうなったのかわからないけれど、これからもこうした感覚を大切にしていける銀河の里でありたい。


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 お盆前の8月11日、ちょうど花巻で山折哲雄氏の講演会があり、職員研修も兼ねて、スタッフも参加した。宗教学者の視点から3・11大震災を語られたのだが、会場からの質問に応える形で、“癒しのために死者と対話する通路をもつことだ”と言われたのが強く印象に残った。この世ばかりがあまりに輝き、あの世と断絶してしまった現代。死者の住む異界との通路は失われて久しい。銀河の里では利用者のみなさんが当たり前に異界の通路を開いてくれている。それによって、スタッフも大いに癒され、救われているように思う。それは個人の癒しを超えて、時代や社会の癒しに繋がっていないだろうか。高齢者介護の本当の意味合いはそこにあるように感じる。
 
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