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新人研修に参加して【2011.09】

グループホーム第1 中村 綾乃

 8月27日、28日の一泊二日で新人研修ということで東京に出かけた。2日目に、国立能楽堂で能・狂言を鑑賞したのが特に印象深く、自分にとって貴重な経験となったのでその感想を書いてみたい。


 能は台詞のリズム・強弱が独特で、その内容を細かく聞き取ることは難しかった。予め内容の要約を押さえてはいたが、今、どう展開しているのか場面を把握するのも精一杯の鑑賞で、あれこれ考えながら、とにかく頭を使わされた。一般的な演劇を見るのとは違って、物語の内容そのものを楽しむというよりは、能舞台の雰囲気を味わったという印象だった。鼓のリズムやかけ声はどこか聞き覚えのあるような懐かしいような心地良さを感じた。歌舞伎や盆踊りなどに共通したものもあるのではないかと感じた。役者が足を踏みならすのも、神楽や相撲の四股にも通じるように感じた。一番の見せ所は何と言っても舞で、鼓の音・かけ声の全てが一つに絡まり合って迫力があり、もっと見ていたいと思わせられた。
 一方、狂言は台詞自体が聞き取りやすく、演劇物語の内容そのものを楽しむことができた。 狂言も能と似た喋り方と独特のリズム感があったが、能の堅苦しさの様な雰囲気はなく、言葉の軽快なやりとりや舞台いっぱいを駆け回る立ち回りは能とは違ったわかりやすさがあった。
 後で考えると、内容を理解し楽しむことができた狂言よりも、ストーリーを明確に把握できずに雰囲気の方を味わった能の方が不思議と印象深く残った。


 能を鑑賞しながら、グループホームの現場でのこの半年のことや、特に私が担当になっている利用者のアヤ子(仮名)さんのことを思い出した。アヤ子さんは、言語でのコミュニケーションはとれない方なのだが、表情やまなざしなどでメッセージをたくさん出してくれている。その内容が言語的にはっきりしないので、私はどのように付き合っていけば良いのか悩んでいるところだった。
 言葉での明白なやりとりや、明快な答えを求めてしまう私は、アヤ子さんと言葉のやりとりの難しさから、理解ができず、気持ちも繋がらないと思いこみ、正直「はっきりしてよ」と苛立ちを覚えることも何度かあった。そんなすっきりしないアヤ子さんとの関係を抱えてずっと悔しい思いをしていた。その度に「言葉だけではない何かを感じ取らなければアヤ子さんは理解できない」と先輩スタッフからアドバイスされるが、それが何なのか、どう感じればいいのか、全くわからないまま、かえって難しく考えてしまい、苦手意識が増大していた。
 しかし今回の能を鑑賞しながら、ストーリーも台詞も明確にはわからないにもかかわらず、雰囲気や感覚は充分伝わってきて楽しんでいる自分に驚いた。ストーリーや台詞を超えて、舞や鼓の音、かけ声、笛の音、囃子方の謡いなど、言語以外の所で心は動かされ、引きつけられ、感じさせられた。「言葉ではないなにかを感じ取らなければ理解できない」と言われてきたことがスッと入ってきた。
 言葉でアヤ子さんの気持ちを正確に理解しようなどと躍起になるのではなく、言葉でのやりとりが難しい分、アヤ子さんのこれまでの生活だとか行動をもう一度振り返り、理解を深めながら、私の感性や主観をフルに動員して、アヤ子さんの気持ちや雰囲気を感じ、やりとりの展開を見守っていくことが大事なんだろう。そしてその気持ちや雰囲気を他のスタッフに、どのように伝えていくかが私の課題だと思う。


 新卒の新人職員としてグループホームに入って半年が経ち、仕事にも何となく慣れてき始めた所である。今回、新人研修で能を見たことで、人から教えられるだけではなく色々な経験を通して自ら気付き発見していくことがアヤ子さん達と出会っていくためには大切だと感じた。能は初めての鑑賞だったこともあって新鮮だった。こういう形で日本の伝統芸能に触れることができたことは嬉しかった。これからもおりにつけ触れてみたい世界だ。仕事を始めて半年というこの節目での新人研修の能舞台は、次のステップに進むための、なにか大切な扉を開いてくれたように思う。  
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