トップページ > あまのがわ通信 > 2011年9月号 今年も、花火の夜

今年も、花火の夜【2011.09】

特別養護老人ホーム 村上 ほなみ
 

 「また来年も見にこようね!」そう言って、3人で手を繋いで見た去年の花火。あれから1年。今年の花火大会も去年と同じように、左手にユキさん(仮名)、右手にクニエさん(仮名)の手を握って花火を見た。去年と同じ場所で、同じ人と、でも感覚はちょっぴり進化をと感じる今年の花火の夜だった。
 8月に入ると「今月、花巻の花火だよ!」とユニットで花火大会の話題になる。「昔は家族で行ったったぁ!」「川の所から上げるんだよねぇ、いっつも見てた〜」利用者さんの思い出に会話が弾み、リビングが賑やかになる。みんなが楽しみにしているのが表情や言葉から伝わってくる。
 それを少し離れたところから見守りながら、私はクニエさんに「今年も一緒に浴衣着ようね!」と小さく指切りした。ユキさんはいつもの席から「20日だもんね」と私に微笑みかけてくれる。こんな利用者さんとの些細なやりとりに、私は幸せな気持ちになる。
 花火大会の3日前、クニエさんが左足の激痛を訴えた。病院に向かう車内から息子さんに連絡を入れて待ち合わせる。検査結果を待ちながら「やっぱり、年とるとこういうことあるんだね。おととい会った時は元気だったのに。花火に間に合うように、浴衣もクリーニングに出したんだけど・・・」と息子さん。
 そんな息子さんの言葉にお母さんへの思いが一杯詰まっているのを感じる。検査は異常なしだったが、院長は「心配だったら何日か泊まってもいいよ?」と言ってくれた。私は息子さんの言葉が心に残って「帰りたいです…」と言うことができた。「一緒に帰りたいみたいです〜」と笑いながら車椅子を押す息子さんにもホッとさせられた。
 7月30日の朝のこと、私は目覚めると、なぜか今日クニエさんと出かけたいと思った。どこと言うことはなかったが、とにかくどこかに出かけたくて誘った。「どこまで行くの?」と言われたので、「アヤメ園」ととっさに言った。そんな感じでも「行ってらっしゃい」と笑って見送ってくれるのが銀河の里だ。
 アヤメはすっかり時期が過ぎていて、2人でも苦笑い・・・。“このまま帰るのは寂しいね・・・”息子さんに「少しの時間でも会えれば」と思い電話してみた。「お〜、そうか、そうか。今、遠野の親戚の人たちも来てるんだ。丁度おばあちゃんの所に行くつもりでいたったぁ。よかった、来て来てぇ!!」と言ってくれた。電話の話しを察してクニエさんの表情も明るくなる。
 家に伺うと遠野の娘さん、息子さん夫婦も来ていて大勢が集まっていた。まるで、クニエさんが帰ってくるのが解っていて集まったようだとみんな驚いていた。朝なぜか“今日は出かけたい!”と感じたのはこういうことだったのかと思う。はずさなくてよかったとホッとした。
 そしてクニエさんの浴衣が用意してあり、浴衣を見ると一瞬表情が変わった。“思い出がある浴衣だろうなと思いながら、今年の花火を思いでのひとつに付け加えてほしいと思った。大勢の親戚の人たちと記念撮影もして、浴衣を受け取って「また、いつでもおいでね!」という家族さんの笑顔に送られて里に戻った。
 花火大会の前日、クニエさんの部屋に私達の浴衣を飾った。「花火行くぞ!!」と気勢をあげるとクニエさんの手も上がる。その日、夜勤に入った私はいつもより多く顔を見に行った。
 ところが当日、出発前に“行かない”と首を振る。これもひとつの儀式だと意に介せず「私が先に着るから!!」と浴衣を着付けしてもらう。浴衣を着る私をチラチラと見ながら。目が合いそうになると狸寝入りしている…。「起きてるの分かってるよ〜!見て見てぇ!どう?」と目の前に立ったら、もう「行こう?」なんて言葉はいらなかった。クニエさんも浴衣に着替え、髪も編みこんでもらい車に乗り込んだ。「今年もお揃いの浴衣着たんだね。いいねぇ!」と言われ照れ笑いしている。
 去年も一緒に花火を見たユキさんが「クニエさんは?いる?」と気にしてくれている。“ここにいるよ!”と合図すると“うんうん”と返してくれる。車中クニエさんの目がキラキラしていて、「もう少しだね!楽しみ〜!!」というと手をぎゅっぎゅっ!と握ってくれる。
 会場に到着し、去年と同じように私を中にしてクニエさんとユキさんが座った。花火がドーン!と打ち上がるたびにクニエさんの左手が上がった。
 ユキさんも“ドンドンドーンッ♪もっと上がれ!”と花火に手を振っている。私の手と触れるとユキさんがぎゅっと握ってきた。
 今年も3人で手を繋いで見た花火は、最高だった。「去年もユキさんの隣で花火みたよ〜」に「あら〜、よく覚えてること!!」と言いながら花火に向かって手を振るユキさん。クニエさんと繋いだ手からも花火が上がるたびに力が伝わってきた。「やっぱり、花火いいね」というユキさんの言葉に、私はいろんな思いを乗せて「そうだね!」と2人の手をさらに強く握った。
 ユキさんは里に戻ってから、スタッフに「どうだった?」と聞かれ「よかったよ〜!」とニコニコで、両手を使って「パチパチパチパチ・・・ヒュー・・・ドーン♪」と何ともいえない花火を表現。その場にいた全員が真似をして花火をあげて笑った。ユキさんは、里に残っていた人たちにも花火を届けてくれた。私はいつものようにクニエさんとすこし離れた所からそれを笑って見ている。ここち良い時間が流れる。
 次の日、クニエさんの部屋へ行き「昨日はありがとう(*^_^*)」と隣に横になると「あ〜!!」といつもの強烈パンチ。髪を引っ張られ「やめろ〜!!」とむきになる私を見て「グハハ、ワハハ〜」と笑っている。「これがばばちゃんの愛情表現だ〜」と一緒に笑った。こんな日常の時間に幸せを感じながら「来年も行こうね」と約束した。
 
〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail: