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何が銀河の里なのか その1【2011.09】

理事長 宮澤 健

<深みのあるケアへの挑戦>
 地域の高齢者福祉の関係者では、銀河の里は認知症専門の施設という認識が定着しつつある。開設まもなくの時期から、銀河の里では、荒れていた認知症の高齢者が落ち着くという話しがケアマネージャーの間で噂されることがあった。銀河の里には対応が難しいケースが紹介される傾向があり、特養ができても身体的介護より、認知症の困難事例が相談されるケースも比較的多い。難しいケースは銀河さんという空気に、「引き受けますよ」という気概のようなものがあり、こうした挑戦の姿勢はこの10年、他施設にひけを取ることはなかったと自負している。また実際にケースに関わると、難しいとされたり、他施設で敬遠されるケースほど、奥が深く、興味深い関わりが生み出され感動の展開になることが多い。 こうした10年の歴史を経て、現場で認知症ケアの経験も積み、特養も実質認知症対応になっているのだが、県内の認知症介護の業界では異端児的存在で、こちらとしてもどこか違和感があり距離を感じる。
 一方、現場の認知症ケアの研究の先端にあって、全国の指導的立場にもある東京センターのN先生などは、個人的にマスコミなどの「日本で認知症ケアの先進事例はどこか」という問い合わせに、「ぬきんでて銀河の里」と紹介していただくことがあるので、地域では異端児でも、全国的にはそれなりの評価をいただいているものと思う。ただ、良いケアをやっていると有名になっても、わずか数年で堕落して、ひどい施設になっていく例もよくあるので、常に挑戦の姿勢でありたい。


<異端児としての誇り>
 異端児的な存在で、独自の取り組みをしているようなのだが、これまではその内容を説明する努力をあまりしてこなかった。説明するとつまらない話しになるし、文章も品や艶とはかけ離れ、苦しい感じになるので、「そんなつまらないことやらないんだ」と言う空気もある。しかし、日々現場で頑張っている若いスタッフのためにも、世間や他者に対して理解を得る意味でも、自らの独自性を見つめる上でも、そろそろ説明をこころみてもいいように思う。
 銀河の里が開設される前年、「生きる心理療法」という本が出版された。銀河の里の理念や実践はこの本から、大きな影響を受けた。著者の皆藤章先生は「心理療法とは何か」と問うのではなく、「何が心理療法なのか」と問うべきだと主張されている。固定的な概念を押しつけるのではなく、あくまで「生きる」ということを基盤に「何が心理療法なのか」と問い続ける姿勢が大事なのだと理解してきた。
 皆藤先生に倣って、「銀河の里とは」ではなく「なにが銀河の里なのか」と問うべきだと思う。「銀河の里は介護施設でしょ。いや高齢者だけでなく障がい者就労支援もあるから複合福祉施設じゃない。でも農業もやってるよ。米もリンゴも作っているのはなぜ?」外からみれば訳がわからなくなるのではないか。そうしたとらえどころのなさが銀河の里そのものだから、確かにわかりにくい。


<わかりにくさ>
 特養ができて立ち上げから2年の内に約90名の職員スタッフが退職している。介護施設の定着率は一般に低いが、この数字はあまりに過激だ。では、そんなにスタッフが辞めてしまって、現場は混乱したり仕事の質を落としているかというと、全く逆で、今年に入って、急激に雰囲気もよくなり、仕事もかなりいいところをねらえる良いチームに育ちつつある。
 それでは、辞めた90人が未熟で、今年のスタッフはベテランかと言うと、それも全く逆で、開設当初は他の介護施設経験者や介護福祉士が多く、銀河の里育ちのスタッフが現場にほとんどいなかった。その2年間は銀河の里らしい社内風土が維持できず、言わば世間の風が吹き荒れた日々で、とても苦しかった。資格もあり経験の長い介護士の多くが勤まらない現場だということも、銀河の里が他の介護施設と違うところである。
 特養の今の良い雰囲気は、銀河の里育ちのスタッフと、新卒や介護職未経験のスタッフで作られたチームになったことが大きな要因だ。介護を作業としてこなすタイプの人が去り、経験は少なく技術は未熟でも、人に対する関心や興味を豊かに持っていて、利用者と一緒に生きるタイプのスタッフでチームが組めるようになったことにある。 そのために90人が去り、今のメンバーが選ばれたとも言えるだろう。辞めた人たちの中には、「銀河の里はひどいところだ」と噂をしている人もあると聞く。確かに本人がそう思うのだからそれでしかたないが、私としては、その人達に「個人として利用者に対しどうだったのか」と問いたい。


<人と人生に向きあう>
 今月号に花火大会の記事を書いているほなみさんは、特養開設時に高校新卒スタッフとして加わったのだが、施設実習を通じて、他の施設では働きたくないと強く銀河の里を希望して、実家の近くに就職を勧める親の反対を振り切って里にきてくれた人だ。おばあちゃん達が好きという感じが今月の文章にもよく表れている。自分の特質がいかせる施設は、銀河の里以外にはないと、高校生の彼女にその直感があったのだと思う。開設2年間の特養はおばさん旋風が吹き荒れ、彼女には身動きとれないほど圧力がかかった。今やっと彼女らしさが全開で発揮できるようになったところだと思う。


 昨年の春、自称「無免許運転で介護現場に飛び込んだ」酒井さんは、営業マンから35歳での転職だった。昨年の9月号に記事を書いてくれたように、銀河の里で半年勤務したあたりで他の施設に実習に行って、初日でまいってしまい、2日目の実習は勘弁してほしい と訴えたほど、銀河の里と真逆の所だとの実感がある。「人間は最後まで人間なんだ」と彼の純粋な魂は怒りに燃えた。
 二人に代表されるように、介護作業員ではないスタッフが集まってチームが作れるようになって、やっと銀河の里らしい雰囲気が出始めてきている。では銀河の里が他の施設と具体的には、何が違うのだろう。
 昨年から、厚労省の介護プログラムで、銀河の里に所属しながら、介護福祉士の資格取得コースに学んでいる千枝さんは、現場の実習を通じて、その違いを昨年から通信に書いてくれている。それによると、他施設では、職員と利用者の間に見えない壁のような重い扉がしまっていて、その扉には厳重な鍵がかかっているという。銀河の里にはそうした扉はないというのが彼の見解だ。
 鍵を捜してその重い扉を開けたいと言う千枝さん。その使命感を応援したいが、私からすれば、「なんでそんな扉できちゃったの」と不思議に思う。しかし利用者からすればたまったものではないだろう。


<違和感と失望>
 開設10年を経た銀河の里が、地域で認知症専門施設という認識と評価をいただけるのは大変ありがたい。一方、岩手県には25人ばかりの認知症介護指導者と言う資格を持った人がいるらしく、その資格者がいるところが地域の認知症介護の指導施設と言うことになっている。認知症ケア関係者はそういう施設や指導員から研修を受けるしくみになっていて、我々スタッフも参加するのだが、失望したり、あきれたり、怒って帰ってくることが多い。
 せっかく研修のために現場をあけて参加しても、がっくりさせられる現状である。例の鍵のかかった重い見えない扉があると千枝さんが感じた施設は、その指導施設のひとつである。
 次回から、実際、里のスタッフがこうした研修のどういう所に失望や違和感を感じるのかを検討をすることで、銀河の里の独自性を考えてみたい。
 
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