トップページ > あまのがわ通信 > 2011年8月号 昌子画伯、大健闘!

昌子画伯、大健闘!【2011.08】

特別養護老人ホーム 中屋 なつき

 先月24日、石神の丘美術館にて昌子さん(仮名)が作品を出品していたプリン同盟10周年記念展が終わった。約1ヶ月半の会期中、何度か地震があったが、そのたびに「絵、落ちてないかなぁ?」と語っていた昌子さん。以前は地震なんか起きたら硬直して泣き出していた人が真っ先に作品の無事を案じていることが驚き、「地震は怖くないの?」と尋ねると、「だって自分の絵だもん!」と作家としての自信に満ちた笑顔を見せる。この大きな変容に、こちらも嬉しさで身震いする。「自分の作品だから片付けも自分も行く」と表明し、その日を楽しみにしていた。
 最終日の24日は、併設の道の駅も合わせてイベントも盛りだくさんで、作品の搬出も兼ねて一緒に遊びに行った。日曜日ということもあり、家族連れなどで賑わっている。人の多い所が苦手な昌子さんのはずだが、なぜか落ち着いていたというよりウキウキしていた! この日はプリン同盟による「10段プリン」なる披露があると聞き、楽しみにしていた。写真では見たことはあったが、実物を見るのは私も初めて。プリン同盟結成の年から、会長手作りのプリンを重ね続け、10年目の今回はプリンのピラミッド(?!)も10段になるという。昌子さんも「それって、私も食べれるのかなぁ?」とワクワクしていた。
 道の駅の広場にアナウンスが流れ見物人がドッと集まり人垣ができる。舞台の上には会長ほか数名の同盟員が登場、「あ、始まる!行こう行こう!」と私たちも駆け寄る。人混みに弱いはずの昌子さんが気になったが、心配無用だった。一段ずつ積み上げられるたびに「おお〜!」というどよめきと共に拍手と笑いが起こったが、その様子を「ふふふ♪」と楽しそうに眺めている。途中、少し前に陣取っていた小学生くらいの女の子二人組をジッと見つめていた昌子さんが「あの女の子の帽子!」と指をさした。見るとその子がかぶっていた帽子に、なんと昌子さんが作ったプリンバッチがちょこんとついている!(会期中に訪れたとき、私たちが躍起になって「ガチャガチャ」に群がり、なんとか昌子さんの作ったバッチが出るまで回し続け、ついぞ手にすることのできなかった物で、「でも、どこかの誰かに当たるのも嬉しいよね」と話していたのだった。)これには日向さんも私も興奮して「わぁ!」と叫び、思わずカメラを向けて、女の子に不振な顔をされちゃったほど…。昌子さんもニタリ♪としている。
 そうこうするうち、ついにプリンタワーも大詰め、崩れることなく最後の10段目が積み上げられた! 大歓声が起こる。会長さんの顔にもやっと安堵の笑顔。「みなさん、ぜひお近くに寄って記念撮影をどうぞ!」というアナウンスに、昌子さんも携帯を取り出した。そして、なんと人混みをかき分けグングンと前に進んで行くではないか!「な〜にが人見知りだいっ!」と突っ込みたくなるほどの勢いで、プリンタワーと会長さんの姿をバッチリ写メに収めると、また人混みの間を満足気な笑顔で戻ってきた。日向さんはそんな昌子さんを後ろから見守り、バッチリ写メに撮っている。
 その後は美術館で展覧会最終日のイベント「プリン縁日」を存分に楽しむ。同盟の方々が作ったプリンにまつわるユニークなお面の数々、くじを引いて当たりが出るとプリングッズがもらえる屋台風コーナー等、お楽しみがいっぱい用意されていて、昌子さんは目移りしながらもウキウキを隠せない様子。同盟員さんたちの中には、私が学生時代にお世話になったギャラリーの方や、そこで知り合った作家さんたち、大学の先輩や後輩もいて、まさに10数年ぶりにお会いできたことに私はとても興奮していたのだが、昌子さんとしては初対面。さて、どうなるか…と思っていたが、好奇心が勝ったよう。同盟の方々が共通して持っている「ゆるゆるな感じ」に人見知りは必要ないのかもしれない。
 くじのコーナーへ臆さず進み出ると、「一回、いくらですか?」と自分から話しかけている。同盟員さんからゲームの種類や遊び方をにこやかにゆるゆる〜っと説明してもらって、「じゃ、これ、やる♪」と昔ながらの型抜きを選んで挑戦する昌子さんと日向さん。残念ながら失敗して、受け取った残念賞がなんとあの「ましゅろープリン」だったので大喜び。会場では昌子さんは緊張することなく終始ニコニコとリラックスしていた。
 展覧会の公開時間が終わり、片付け作業が始まる。会場には学芸員さんと同盟員の人たちだけとなり、例のガチャガチャを取り巻いている一団に昌子さんも自然と加わって、一緒にワイワイやっている。プリンのように柔らかで、おもちゃのカプセルひとつにクソ真面目に心の底からワクワクできちゃうような大人に対して、人嫌いなんか必要ないのだろう。
 昌子さんの絵も壁からおろす前にぜひ写真を撮りたかった。私が会長の三河さんに、昌子さんと一緒に写真に入ってほしいとお願いする。会長さんは快く引き受けてくれて昌子さんの絵の前でポーズを決めてくれる。それにつられて照れていた昌子さんも隣に立って良いツーショットが撮影できた。
 片付ける作業もテキパキ、借りた額も丁寧にお返しした昌子さん。一緒に作品を梱包しながら私は、美術館デビューまでの一連を振り返って、しみじみと感激していたのだが、昌子さんは「この絵、ワークに持って帰ったら、どこに飾る?」と、次の展開を思い描いている。そこへ「一緒に入って〜」と同盟のみなさんから声がかかる。無事に展覧会が終了した後の記念撮影に誘ってくれたのだ。今まで銀河の里でも集合写真を撮るような場面では遠くに逃げ去って写真に写ることのなかった昌子さんが、この日は堂々とみなさんと一緒に写真に入ることができたのも、この数ヶ月間、プリン展に取り組んで成長してきた昌子さんの自信の表れだったのではないかと思う。
 お世話になった学芸員さんに挨拶し、そろそろ帰ろうか…という前に、「みかわやさんにお話する…」と自分から切り出した昌子さん。察してくれた会長さんの「次も何か出品する?」と誘ってくれた一言に、待ってましたとばかりに「うんっ!」と満面の笑顔を見せる。早々に8月からやるという「第10回プリン展」への出品の打合せを自分でしている。 「あそこは美術館より狭いから、今回みたいに大きいのは無理だよ」「わかってるよ〜! このくらい(A4の紙を見せて)の画用紙に描くよ〜」 「うんうん、それならいいね、額もあるから」 「うん!♪」


 こうして昌子さんの美術館デビューが大成功に終わったことで、作家としての創作意欲はさらに広がり、2日間のうちに新作を描き上げ、「みかわやさんに渡してください」と伝えてきた。「額に入れたりするでしょ?間に合うかな?」と段取 りまでしっかり考えている。後日、「無事に三河さんに渡した よ。絵、見て、三河さんも笑ってたよ」と伝えると嬉しそうにニンマリして、「でも(盛岡に)見に行けないな。次の土曜日は夏祭りの看板づくりがあるでしょ? その次はお盆のネギの出荷が忙しいから。お仕事、忙しいから〜」行けなくて残念というよりは、責任を果たす仕事人としての一面も押さえている。大きく世界を広げ成長した昌子さんの今後が楽しみである。
 
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