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「チャリティーライブ」改め「一撃劇場」【2011.07】

特別養護老人ホーム 酒井 隆太郎

 銀河の里にきて一年が過ぎた。俺は、自動車のセールスマンから転職した35歳の、妻と3人の子供と暮らすただのオッサンである。この1年、もの凄く濃密で過激な時間が過ぎ、新鮮で刺激的、且つ感動に満ちた日々だった。利用者と出会うたびに俺自身が変化していくのが感じられた。介護の経験も勉強もしていない俺だが、この1年、全力で走り、失いかけていた生のリアリティを取り戻すことができたように感じる。これは、利用者の激しい個性との出会いで支えられたのだと思う。本当にありがたいことだ。
 中でも、今年90歳になるKさんは特にインパクトがあった。人の何倍もの拘りがあり喜怒哀楽を自由に表現し、鋭い眼光で睨んでいる。デカイ声、ハッツキリとしすぎる意思表示、年齢や性別を超越した存在に感じる。
 彼女は任侠映画、チャンバラ映画に造詣が深く、勝新太郎が好みだ。確かに雰囲気もまるでオンナ親分か組長といった感じである。ちなみに食べ物は、芋類が好きで、特にサツマイモが好きである。
 そして歌も大好きで、頭の中には古い歌が、昔で言えばジュークボックス、現代で言えばiPodのごとく、たくさんインプットされている。俺も、ギターを中学から弾き始め、素人ながらライブも打ってきた経験があり音楽は大好きだ。歌で、俺と組長は出会った。ギターを組長の前で弾くと、組長は自分のその時の気持ちを歌で表現してくれるようになった。
 これがきっかけとなり、俺は組長配下の組員となり、いつか組長とのステージを実現させたいと思っていた。そんなある日、ワークステージの昌子さん(仮名)が俺のところにやってきた。話しを聞こうと俺が近づくと、その子は泣き出した。髭に坊主頭、オマケに組員風のTシャツは、あまりにも強烈で、怖かったのだろう。一緒に来たワークのスタッフ、日向さんの説明では、石神の丘美術館で開催される美術展に彼女の絵が出展されるということであった。(詳細は先月号中屋、今月号日向の記事参照)出展用に絵を入れる額は何とか手当てできたが、マットの費用が足りない。泣いている彼女は募金箱を抱えていた。そういうことかと感動したおれは早速、募金をした。その時、フッと浮かんだ。「その募金活動俺にも手伝わしてくれや」。
 俺はギターでチャリティーLIVEをやろうと思ったのだった。「がんばろう」なんかじゃ嫌だ。名付けて「サンダーロードへの道・一撃劇場」と銘打ち、6月13日月曜日、特養交流ホールPM2時開演と決まった。
 早速この話を組長に伝えると「いい話しだ、そうゆうことなら協力しよう」と二つ返事だった。本人がステージに出ることはさすがに躊躇していたが、腹を決めてくれたので俺もホッとした。
 普通のLIVEじゃない、利用者やスタッフが演奏中も歩き回ろうが、ヤジろうが、好きにしていいスタイルにしたかった。流し風ライブだ。会場にはギターケースを置き、それに募金を投げ込んでもらう。この感じで行きたかった。
 当日、車いすも自由に行き来できるように通路を確保して椅子を並べセッティングした。ギターケースの位置は特に重要だった。舞台前と通路側に2カ所設置した。そして満員御礼の交流ホールで「流し風ライブ・一撃劇場」の開演となった。ノリノリの曲をガンガン歌って始まった。3曲続いて盛り上がったころ組長の登場。2曲をガッツリ歌って上機嫌、歌い終わってもステージから降りず最後まで壇上に居座った。歌い足りないのか、俺が歌っている曲も歌い込む。俺の曲が終わると組長が歌う。まさに組長と組員のタイミングで進んでいった。
 観客席は観客席で凄かった。ショートステイ利用中のKじいさんは、歌っている俺を目を離さないで睨んでいる、そして、曲がいよいよサビの部分にかかろうとする、まさにその時オーーーーーーっと叫ぶ!!完璧に俺の歌の進行を見抜いてる。俺が盛り上がろうとすると必ず叫ぶ。曲も歌も全く知らないはずだが。こんなライブ経験したことがない。アドレナリンがほとばしりノリが絶頂に至る。そこに経管で寝たきりだが、ノリにはさらに乗ろうというFさんが会場に現れ、「ホレホレ」と楽しげなかけ声で盛り上げてくれる。
 そして、肝心の募金。若いスタッフ三浦くんと一緒に来ていたSさん。SさんはレスキューSさんと呼ばれるだけあり、特養で何かあると必ず駆けつけて手伝ってくれたりする。三浦君が小銭を出すと、Sさんはダメダメと手で四角を作っている。「小銭じゃだめだ。札を出せ」ということなのだ。「粋だねぇ〜」。だが小銭しかない三浦くんは、なんとか説得。ところがそれを受け取ったSさんは投げ込むかと思いきやスタスタとギターケースの前を素通りしてしまった。「あれどこ行くの」と慌てていると、ひとまわりして、ポイッと投げたのは曲の終わりとぴったり同じだった。お見事!
 俺も数々のライブをこなしてきたが、こんなに弾き手と聴き手が一体となった、濃くて凄まじいライブは経験したことがない。一番印象に刻まれたライブとなった。まさに劇場だった。
 最後に組長の挨拶で締めてもらうことにした、組長は「あいよ」とばかり引き受け、「みなさん、今日は集まってもらってありがとうござんした」などと実に筋の通った見事なあいさつと、三本締めで幕を閉じてくれた。
 熱気を帯びた劇場が終わり、撤収作業をしていると、組長が床を指さして「ここに“爺さん”ごろんとねでらじゃ。」 と俺に言う。驚いて見るとそれは募金のために床に置いたギターケースではないか。いやぁー、ここでも締めてくれたぜ組長・・・。
「こんな、里の劇場ライブをみんな見に来いや!」  
 
ライブ後、組長と


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