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行動するちから【2011.04】

ワークステージ 佐々木 哲哉
 

 米同時多発テロの模様をTVで見ていた時以来の感覚だった。
 畑班は、施設周りの木を伐採する作業をしていた。林の中でひどい揺れに立ち往生したあとで顔を見合わせた広一さん(仮名)は「これはシャレにならないな」と、この先に不安を募らせた。
 情報が錯綜するなか、ラジオとスタッフの携帯TVで徐々に戦慄する状況が伝わってきた。地震と津波による自然の力の脅威。福島第一原発の見えない恐怖は世界を揺るがす最悪のシナリオを想起させた。

 地震による建物や関係者に甚大な被害はなかったが、電気が使えず、残りの燃料や食料、おむつなどの生活用品の量を、日々確認しながら、当面どう乗り切るかが、直近の課題となった。物資の調達も車両の燃料をどう確保するか、問題は差し迫っていた。ホワイトボードに車種と燃料残、外出の要件をリストアップしてはにらめっこしながら、使う車両を限定して、他の車両から(耕運機までも!)燃料を抜き取ってストックした。車両を使う時は用事を複数まとめて行くようにお願いし、職員や業者さんから周辺の給油情報を聞き、夜間に給油所へ並ぶなども行ったりしたが‥‥せっかく寒い思いをして車中で一夜を明かして並んでも、たった10ℓしか給油できなかったり空振りなども続いた。
 皆この緊張感とある種の空しさにうんざりして、開き直って施設に泊まり込んだり、自転車で通勤する職員が増えた。新しく自転車を購入して、遠距離を通ってきた職員もいた。
 また震災2日後にデイの利用者の息子さんのFさんが沢山の発電機を届けてくれた。緊急時の酸素発生器を動かすためにセットしたり、携帯の充電に使ったり、ワークではお米の精米などができて大変助かった。


 私は学生の頃、阪神淡路大震災の時に神戸で1週間ボランティア活動に参加した。避難所で救援物資の膨大な衣類の仕分けを担当したが、なかにはとても使えないような汚れや染みのついた衣類などもあって、善意の裏側を見せつけられたり、まとまった数のない衣類をどう配分したらいいのか途方にくれた。
 同時に、「行けば役に立てるだろう」と勢いだけで被災地に入って、ろくに動けない己のなかにも正義という名の欲や自己満足、偽善があることを知り、数が揃わなかったり賞味期限が迫った救援物資としての食料をボランティアスタッフと一緒に食する日々に「ただ糞をするために来たのだろうか‥‥」と激しい無力感や自己嫌悪にとらわれた。「ボランティアとは何ぞや?」と、毎晩のミーティングでいろいろ考えさせられた。
 震災以外にも学生時代は自然保護活動などに参加して、一部のダム建設など必要性が疑わしく自然環境を改変させてしまう公共事業に憤りを感じて反対運動の集会などに参加したが、そこでもある種の限界や距離感を感じていた。それでも、行ってよかったと思う。
 今回、どちらかといえば被災する側に立ったが、以前との違いは、その立場ではなく、自分がその地に足がついているか、当事者としての意識があるかどうかだと少し分かってきたところだと思う。当時は自分のことばかりで、被害を受けた方やその土地と充分向き合っていなかったと思う。いまは守るべき人や場所があり、食料や薪といった資源を生み出す農の暮らし・仕事や対象、思いがはっきりしている。この存在や安心感は、とても大きい。そしてそこに生かされているからこそ、少しでもできることをしたいと思う。


 今回の震災は、石油や電気に依存し過ぎた生活を見つめ直す機会でもあると思う。ライフラインが復活したからといって、果たしてこれまでの生活に戻ってよいものだろうか‥‥被災地で、水を山から引いてきたり廃材から風呂場を作ったりしている一方で、都市部では給油所に長蛇の列ができたり、買いだめに走ったり、放射能に過剰に反応したりしている。
 大なり小なり私もその一人なのだが、こうした姿は、現代文明を拒んで今もアマゾンや極北の地で自然とともに暮らす先住民族やアメリカのアーミッシュなどには、さぞ滑稽な光景に見えることだろう。
 その電気の明るさや使い方は本当に必要なんだろうか?今後も便利で快適な暮らしと引き換えに、日本の3割の電力を担う原発がもたらすリスクを背負っていく覚悟がひとりひとりのなかに本当にあるのだろうか?
 「生きるちから」が退化してしまった私たちだが、今回の節電・節エネルギーを機にもっと本気で3割の電力を減らす努力を多くの人々が行ったら、これまでのエネルギー政策も変えられるのではないだろうか‥‥そこに新しい日本の可能性があるんじゃないだろうか。


 三陸は瓦礫の撤去から町の再建へ、そして海の再生へと先の長い道のりを歩んでいくことになる。神戸の震災での教訓から、ボランティア慎重論や迷惑論も拡がっているようだが、思いを行動に起こすこと、その思いを汲み取って活かす役割を担う場所や人が大事だと思う。私自身も本業に精いっぱい取り組みながら、小さなことでもできることを仲間たちと行動に移してみたいと強く思う。


「あなたが善を行うと、利己的な目的でそれをしたと言われるでしょう。
気にすることなく、善を行いなさい。」
マザーテレサ

 

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