トップページ > あまのがわ通信 > 2011年3月号 特養に響く赤ちゃんの泣き声


特養に響く赤ちゃんの泣き声【2011.03】

ワークステージ 米澤 充
 

 「おらのじいさんは逝ってしまったよぉ…。赤ちゃんはいいなぁ。これからだもの。おらはどんどん弱るばかりだ…」旦那さんが亡くなった翌日、生後5ヶ月の息子を抱いている私にグループホーム入居者のゆう子さん(仮名)が声をかけてくれた。赤ちゃんを見るゆう子さんのまなざしは“希望”を見るかのようだった。


 介護度の低いショートステイの修さん(仮名)は、手持ちぶさた気味で特養ホーム内を巡り歩き、交流ホールでコーヒーを飲んだりしている。どこか近寄りがたく声をかけづらい雰囲気もあるのだが、赤ちゃんを見ると、にかぁーっと笑い、抱っこしてあやしはじめた。この時から修さんに会うたびに「今日赤ちゃんは?」と聞かれるようになった。
 いきなり“おじいちゃんの顔”を見せてくれたことに驚きながら、以前送迎の車中で話しをしてくれたことも思い出した。修さんは奥さんと二人暮らしなのだが、2人の息子さんとは、年に数回しか会えないらしい。「そんなに遠くでもないんだから、孫を連れて来てくれてもいいのになぁ。平日は仕事、土日は家族サービスで忙しくて仕方ないんだな」と寂しそうだった。
 1月の運営推進会議では、ショートステイ利用者の西野さん(仮名)のピアノと米澤里美(私の妻)のフルートが2年ぶりの共演を果たした。演奏の途中大声で泣き始めた。オギャー、オギャーと泣き声が廊下を伝って特養ホーム全体に響き渡る。それを聞きつけて、ものすごい勢いでダッダッダッダっと小走りでやってきたのはカヨさん(仮名)。「赤ちゃん、いい子、いい子。いい子だから泣かないでや〜。よしよし〜。」とおんぶして一緒にあやしてくれる。
 演奏の妨げになってはと特養ホームの廊下の奥のほうであやしていたのだが、カヨさんもずっとそばにいてくれ「泣き止まないな〜。どうしたらいいべ。ありゃ〜、困ったなぁ…」と一緒に困ってくれる。 いつものカヨさんとは違って、おばあちゃんモードにスイッチが入って、必死に子守りをしてくれるカヨさんだった。


 米澤家にとって大きな存在であった祖父は、ひ孫の姿を見ることができず、誕生の3ヶ月前に亡くなってしまってとても残念であった。銀河の里の利用者さんが見せる息子に対する表情を見ながら、生きていれば祖父が見せたであろう表情を思い浮かべる。
 昨年から銀河の里ではベビーブームだ。そういう事情もあって、特養ホームに赤ちゃんの泣き声が鳴り響く。普通ならうるさいはずなのだが、どんどん泣いていいよと言いたくなる感じがするのはなんだろう。
 
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