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ユニットケア管理者研修に参加して(前編)【2011.03】

施設長 宮澤 京子
 

 この管理者研修は本来開設前に受講しておくべきものだが、全国からの応募が殺到しているようで、2年間抽選に漏れ、今回やっと受講できた。東京研修センターでの3日間にわたる研修には、全国から37名の特養ホーム管理者が集まった。内容は講義一辺倒ではなく、グループ討議などワークショップ形式を取り入れ、参加者が自分で考えていくことを主眼に置いた研修になっていた。
 すでに現場を2年経過してからの参加なので、「特養ホーム」立ち上げの経緯や現場の経験と絡み合わせながら、多方面から刺激を受け、あれこれ考えるには適切であった。受講後、管理者研修の内容を思い起こしながら「ユニットケアは、本当にこれでいいのか」という違和感がつのり、疑問が吹き上げてきた。そこで、ユニットケアに関する書籍やDVD・ビデオ等を集め、総ざらい目を通し研修を踏まえたうえで、私の考えをまとめてみた。



 − 個室でユニット、そして個別ケア −
 ユニットケアの推進が叫ばれる背景には、これまでの日本の高齢者介護の実態が、劣悪な環境と体制のなかで行われているという現実認識とその改革への挑戦がある。
  従来型特養ホームは、一般に集団ケアで、1フロアーに30〜50名が集められ、1室に2〜4名が同居し、職員は10〜17名(利用者3人に対して職員1名)の基準によって配置され、施設側の都合優先で日課は一律に決められており、利用者はそれに従うしかない。プライバシーも個別の要求も「施設=集団」の論理で、我慢させられている。
 ユニットケアでは、入居者10名前後の生活単位を1ユニットとし、職員配置は約5名(全国平均は入居者1.9人に対して1人)で全室個室を保障している。
 ユニットケアの基本的な理論は、グループホームケアにも造詣の深かった、建築学の研究者、京都大学大学院の外山義教授(故人)によって提唱された。教授自身が実際に建物を設計し、建築の側からソフト(介護の意識)を変革させる理論的解説がなされ、従来型の集団介護の概念を打ち破る画期的な考えとして登場してきた。
 一方、世界のなかでも長寿・高齢社会のトップを走っている日本でありながら、高齢者施設は現在でも「姥捨て・養老院」のイメージを払拭できず、入所者十把一絡げ、職員優位、業務優先の集団ケアといった、福祉後進国を証明するような介護施設しか存在しない。
 この現状に対して、戦後何かと社会に意見をのべ、経済成長に貢献してきたという自負をもつ団塊世代や‘おひとり様の老後’を覚悟せざるを得ないことを知った女性団体などが、自分たちの老後の砦となる介護施設に対し、強く意識しはじめた時期と重なる。
 孤独に耐えるしかない老後と、劣悪な終の棲家が自分たちの人生の結論であったと先が見えてきた今、団塊世代や女性たちの焦りと抗議の気持ちが、ユニットケア推進に拍車をかけているのだろうと推察する。
 介護施設の劣悪な実態からの脱却のために、行政(厚生労働省)と組み、既存システムのソフト(意識)とハード(施設)を解体していこうとする流れが起こった。ところがその旗頭役であった外山教授が45歳の若さで急逝してしまった。氏の遺志を受け継いだのが、今回の研修の中心人物である、東京研修センターのユニットケア推進室の秋葉女史だ。
 もちろん彼らは、解体などという過激な言葉を使ってはいないのだが、日本の高齢者福祉を変革していくには、既存のものを壊して新たなものを生み出すための痛みと、相当なエネルギーを伴う作業になるだろうと予想される。解体にあたって外山教授が建築学の専門家として、ハード面から変革に着手したことに大きな意義を感じる。意識は簡単に変わるものではないからだ。ハードが変われば意識は自然に変わるようなところがある。
 今回の研修で感じた私の違和感は、そこらあたりにある。理念が大事だとして、理念、理念と叫ぶのだが、理念がそんなに簡単に掲げられるだろうか。実際、福祉施設の理念は、どこかの既存施設の雛形を多少改変したり、ひどい場合はそのまま持ってきて、監査に通すために使っているのが現状だ。しかもそれを、社会の在り様や人の意識の変化の激しいこの時代に、何年も変わらず掲げて、毎朝唱和して過ごすなど、ものを考えないことを証明するような笑止千万の施設風景さえある。
 人生の根幹には避けようのない「苦悩」があり、「死」という避けようのない現実もある。高齢者福祉は、それらに対してどう向きあうのかが問われる現場である。我々の現場は深い哲学を求められており、簡単に理念ができるのが不思議でならない。できあがった答えとしての理念は、一瞬にして形骸化し、なんの力も持たないものになってしまうのが明白ではないか。入居施設として、ホテル業やアパート業とはそこが違うのである。
 今回の研修は、人生に対する深い眼差しや哲学を真摯に追求しようとする管理者にとって、成功のための「いけいけ!How to」を伝授されているようで、相当に辛いのではないだろうか。フランチャイズの講習会に参加して店長が鼓舞されているような、また救われるために考えることをやめるような安易な宗教団体に似た、居心地の悪さがあった。研修にあつまった他の管理者がどんな思いで参加していたのかは解らない。しかし、古い施設では潤沢に溜まった資金があり、その運用として、新型特養の新築や増築はもってこいの話だし、個室ユニットの特養を持てば法人のステータスシンボルにもなる。
 ユニットケアが既存の介護施設の意識やあり方を変革していく切り札であることは間違いないと思うが、戦略として、建物を人間の生き方のために設計し構想することで現場を変えようとした外山教授の遺志を大切にしたい。
 終の棲家である「特養ホーム」で、どのような暮らしを構築していくのか、そこで生活する人々の関係をいかに紡いでいくのかというソフト面に視点をあて、次回の通信では、ユニットケアの基本的理念となっている、以下について考察したい。
  ■ 貴方らしく「食べて、出して、寝る」
 ■ 職員は、ユニットに固定配置
 ■ 24時間シート  
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