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厨房奮闘紀 その参 里の田んぼから食卓まで【2011.02】

厨房 小野寺 祥
 

【食の起承転結全てを体験】   “作詞+作曲+演奏”
  世間一般的には、栄養士は献立を作り、厨房の調理員が給食を作り、盛り付け、そして介護士が食事を担当する。
 そうした縦割り的な役割分担は里にはない。みんなで田んぼで米を作るぞと言うところから始まる。畑では野菜を育てる。そこから我々栄養士が献立をたてる。その献立を自分でも調理し、盛りつける。そしてユニットに入り一緒に食卓を囲む。利用者の喫食状況を実際に見るし、食事介助にも入る。
 大変なように思われるかも知れないが、この全体をやれるのが面白い。自分が作る献立を中心に田んぼや畑があり、耕し、育て収穫し、調理して、利用者と一緒に食べて、直接聞いて見て、そして献立に活かす。分断作業じゃないから、自分が社会の歯車のひとつなんて寂しさがない。こんな貴重な経験は他ではあり得ないだろう。“作詞+作曲+演奏”と音楽でいえばそんな感じだろうか。
 一日一日の食事は一種の作品だ。その作品は栄養士が献立作りだけに留まっていてはできない。役割は果たせても自分自身の作品という実感は持てないだろう。献立に対する想い、形、色、におい、温度が自分のなかにあり、それらひとつひとつに自分のプライドをにじませたい。自分オリジナルの作品づくりが里ではできる。最初から最後まで自分が加わることで自信と誇りを持って食事を提供することができる。
 スーパーには一年中何でもある。真冬に真っ赤なトマトが手に入る。異様だけどそれが今は普通だ。でもトマトは真夏の暑い日にギンギンに冷やしたものをかぶりつくのが一番おいしい。里は、田植えから稲刈りまでみんなやって、秋には新米をいただく。起承転結の全部を体験する、現代ではこれって貴重なことだと思う。
  里の厨房は就労支援事業所ワークステージ利用者との切り盛りで出来上がっている。「これ、私が採ったんだよ」と笑顔で厨房に大葉や葉ねぎを持ってきてくれる昌子ちゃん(仮名)。いつも自分が切ったものは「これ、何になる の?」ときいてくれる瑞枝ちゃん(仮名)。自分が作ったものが給食にでるのがとても嬉しいに違いない。亜美ちゃん(仮名)もデザートのゼリーを作ってくれて分けるときに、一個一個計り、一緒にやると「59gから61gまでね」と細かい指示をしている。最近は「これならソフト食の人も食べれると思うんだけど・・・」とソフト食の人のことも考えておやつ作りをしている。
 厨房で唯一の男性の大原くん(仮名)。食器洗いも、野菜の切り方も丁寧。あんまんの包み方もみんなの指導役。ユニットの盛り付けにも入り、セイ子さん(仮名)の横にそっと座って、こくこく眠ってしまいそうなセイ子さんに怒られないように肩をちょんちょん叩いて起こしてくれる。そんなワークステージのひとりひとりの活躍で厨房は動いている。


【食卓を囲んで、“おいしい”でつながる】
 食事の時間は、大切な時間だ。他の時間とは違う雰囲気、違う表情が見られる。みんなでおかずを盛りつけて、こっちが多い、こっちが少ないで諍いがあったり、ご飯の量も繊細だ。「べっこはいでけで」とすばるのユキさん(仮名)はいつも言う。そう言うのを聞きたくていつもちょっと多めに盛る。「べっこはいでけで」。「盛りすぎた」「んだ、おめぇいっつもいっぱい盛ってくるもの」とそのやり取りが楽しい。カレーや、シチューは机の上にどんっ!!と置き、カセットコンロで温めて、セルフに。みんなちょっといつもよりも食べすぎ気味になる。
 先日、厨房を出てユニットのキッチンで、昼食を作った。野菜を切る音がリビングに広がる。食事の準備の音や香りは、本当はすごく意味があるんじゃないだろうか。違った利用者さんの表情が見られる。オリオンの紀子さん(仮名)が完食してくれた。「紀子さん全部食べてくれたの!?」と驚いて言う。「うめぇもの全部食べちゃだめだってか?」と笑いながら答えてくれる。みんなでごはんを作ってみんなで食べる。そこには大きな力があり、そこには思いがけない色んなことが動いているようだ。
 「給食じゃない食事」を目指そうと銀河の里の厨房は、駆け出しの我々を中心に挑戦をしている。食卓を囲んで、みんなが料理を味わいながら話に花をさかせたり、のんびりしたり。「あんたぎっちょなの?だめねぇ」と言われむきになって時間をかけて右手で食べてみたり・・・。毎日毎日違う何かが起こる。それを発見するのが楽しくてしょうがない。食事は、食べるだけじゃないことが徐々に解ってきた。栄養摂取という言葉もあるけれど、そんなことだけに特化して作業をして終わってはもったいないような気がする。そんなことを感じ始めたばかりだが、食へのこだわりと情熱を持って厨房からさまざまなことに挑戦していきたい。

今日は一緒に昼食作り

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