トップページ > あまのがわ通信 > 2011年1月号 介護芸術概論?

介護芸術概論?【2011.1】
グループホーム第2 佐藤 万里栄

 私は小さいとき、介護士だった母に連れられて、弟と一緒に母の職場であるケアホームに行ったことがありました。
 そこは一軒家で、何人かの高齢者がいっしょに暮らしているようでした。私と弟を家に置いておけなかった母はその日、私と弟を自分と一緒にケアホームに泊まらせました。 私たちが寝る時間になっても母は一人起きてその家の夜を守っていました。
 私はその夜、いままで味わったことのない変な気持ちで「歳を取ったら、こんなふうな家で静かにくらさなくちゃいけないんだろうな」とケアホームの一室で考えていました。そして、布団が違うせいか、そんなことを考えていたせいか、なかなか眠れませんでした。
 また別の日には、ホームを離れられない母の変わりに、外に出て行ってしまうおばあさんを見ているように頼まれました。おばあさんはホームの中を少し歩いてから、すっと玄関にいき、「家に帰る」といって出て行ってしまいます。私はそのおばあさんにこわごわついていき、少し行ったところで母に言われたとおりに「家はこっちだよ」とホームのほうを指差しました。そうすると、おばあさんは何も言わずに今来た道をもどり、ホームの中に入っていきました。
 このとき「この人は家に帰りたいのに、この人の家はここでいいのかな」と思いました。この人の家がここではないかもしれないことを私は知っていたのに、「帰る」と出て行ったこの人を私は同じ場所につれてきてしまいました。私はうそつきの気分でした。しかし、母は「ありがとう」と私を労いました。
 小さい頃こういう経験があったので、私の中では、介護施設はずっと、少し薄暗い静かな場所でした。そして母が時折家に持ち帰ってくる介護施設の話しもまた、あまり明るくはありませんでした。
 私は去年、教育学部の芸術専攻科でほんの少し美術をかじって卒業しました。就活では途方にくれるぐらい迷っていました。純粋な芸術家にはなれないのはわかっています。でもずっと描くこと作ることに楽しさや喜びや憤りやつらさを感じながら自分を見つめる作業を知ってしまった私は、それらを捨て切れない中途半端な自分を、どう守って生きていくのか悩んでいました。私の中の、少しばかりの創作意欲がずっと生きていくにはどうしたらいいのか考えていました。でもいずれ就職すればそれもあきらめるしかないんだろうなとあきらめながら、たいして興味のない会社に申し込んで、だらだらとした就活をしていました。

 そんな中で、私は銀河の里に出会いました。美術などまったくの畑違いだと私は思っていましたが、その考えが畑違いでした。私の中途半端でちっぽけな「描いて作る」気持ちを里では、「いいぞ、もっとやれ」と背中を押してくれます。「介護には、想像の世界と創造がなければならない」と言うし、「介護じゃないだろやってることは芸術だ。」と意味不明ながらものすごく納得できることを言われます。
 里は、私の中にあった薄暗い介護施設のイメージを吹き飛ばしてくれます。小さいときにあのケアホームで感じた気持ちとは全く別の、命のどよめきのようなものが、銀河の里からは感じられるのです。
 入居されている利用者だけを介護するとか、お世話する感じを越えて、親族や、一族やさらには、現代社会全体のダイナミズムに迫ろうとする気迫が銀河の里にはあります。
  里では、帰宅願望などというチャチな専門用語を使う人はいません。家に帰りたいという利用者さんの気持ちを理解しながら、帰る帰らないを超越して家や、親しい人や、果ては遙か過去や、あの世までもつながってしまおうというダイナミックな視点があります。
 利用者のお孫さんが亡くなられたのを本人に伝えるかどうか、親族でもめていたときも、「この世の現実を突きつけてもどうしようもないことです。そんなことは言わなくても認知症のひとは全部解るんです。」と明快で、親族の方達も一気に迷いが吹っ切れたことがありました。人や、場合によって対応は違ってくるのは当然ですが、銀河には表面的なことには左右されない、ひとつ奥や、さらにその向こうの深淵や超越から現実の本質をはずさずに見つめる視点があります。
 その後、ことあるごとにご家族と行き来していますが、死者も生者も含めて変わりなく、家も里もあの世も関係なく全てにつながり、すべてを居場所にして生きていけるような安心感で支えていこうとする里の大胆な視点に感動します。
 現実にも近いけど、異界にも近いといった中間領域、境界領域にいる人たちがいてこそ、現実に張り付いて生きている社会の多くの人に、生きる力や、意欲をもたらせられるんだという確信に満ちています。 こう考えると、これって完璧に芸術家の仕事の概念そのものだなって感じます。作品でこれを凌駕するのは結構大変なことだと感じる昨今です。
 
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