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厨房奮闘記 その弐 給食からの脱却 〜日本一のソフト食に挑む〜【2011.1】
厨房 畑中 美紗

 特養開始と同時に始まったソフト食。通常の食事のほかに、刻み食・そして未知のソフト食へ私たちは足を踏み入れた。
 最初は、ソフト食と呼べるものではなく、常食をただミキサーにかけてとろみ剤を加えただけのものだった。とろみ剤は何を使ったらいい?形のあるものにしたいが何で固めたらいい?これで本当に食べやすい?本当に未知の世界。とろみ剤・ゲル化剤・ゼラチンなどさまざま試してようやくたどり着いたのが理事長が提案してくれた“寒天”だった。寒天は成分のほとんどが食物繊維で、またミネラルやカルシウムも豊富、栄養素的にも高齢者にぴったりだった。
 どろどろソフトから形のあるソフト食へと進化し、さらに今年一年はより常食に近いソフト食になった。味はもちろん、形も常食に近付けたソフト食を意識して開発した。今まではただただバットに流して固めていたソフト食が、完成形を思い描きながら、たとえば、大根の煮物なら大根の形になるように丸いココットに流して固めて、常食の切り方が半月なら半月に、イチョウ切りならイチョウ切りに合わせてカットしてみたり。魚のソフトはちょっとゆるめに固めて魚の型で形作って魚だとわかるように。ハンバーグも手でまとめられる程度に固めてオーブンで焼き目をつけたり。さらにオレンジは、半分に切って中身をくりぬき、ミキサーにかけて寒天を加えて皮の容器に戻す、固まったら常食と同じようにカットすれば、常食と見た目もおんなじのソフト食になる。果物に関しては、寒天よりも“アガー“の方がきれいにできる、などやっていく中での発見もあった。
 厨房では今年2度、研修に行かせてもらい世の中のソフト食も実際に見てきた。夏にはソフト食が進んでいると言われる食品メーカーA社に行った。実際に食べさせていただいたのだが、味では負けていなかった。ただ漬物やみそ汁の具のソフト食などは、私たちはまだまだ手が出せていないところもあった。逆に銀河の手法を伝えて感心されるなど雲の上の存在だと思っていたA社にも案外近いところまで追いついている感じもして、自信を持った。
 秋に出かけた合羽橋は、食器探しが主な目的だった。常食のプレート盛り脱却を機会にソフト食もプレート盛りを卒業しようと決めた。そして改めて思ったのが食器って本当に重要で、食器一つで料理はここまで変わるもんなんだなという事だった。今まで給食っぽかったのが、魚が角皿に入るだけで家庭の雰囲気が出た。今まで皿に口をあてかき込むように食べていた方も、ヘリがあることで食べかたも変わった。そしてなんと言ってもうれしいのはみんなの反応。ソフト食のカボチャの煮物を見て「私もそっちが食べたい。だってそっちの方がおいしそうだもの」と常食よりもソフト食を食べたいという利用者さんも現れた。また職員も食事介助の時どうしてもソフト食がおいしそうでこっそりつまんだら利用者さんに怒られた・・・というエピソードも。その他いろんなところからソフト食を食べてみたいという声が上がってきた。
 ソフト食とは言うが、何でもソフト食にすればいい訳ではなくて、豆腐ならそのままソフトだし、刺身は歯がなくても意外にみんなペロッと食べてしまう。ソフト食には向かない料理だってある。銀河のソフト食はまだまだ発展途上にあり、これからもどんどん進化させていきたい。
 A社の調理員さんは、自分の仕事に誇りを持って取り組んでいる方で、「ただの調理員には絶対なりたくない、大勢いる職員の誰かではなく、自分は自分として利用者と積極的にかかわっていきたい」と話されたのが印象的で心を打たれた。私も、里の職員の中の誰か、厨房の誰か、栄養士の誰かじゃなく、利用者の中に存在する私でありたい。食事を通して利用者とのかかわりをもっともっと広げていきたいと思う。

試行錯誤で挑戦し続けているソフト食。
利用者も自然と食が進みます。
 
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