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風・土・ひと【2010.12】
ワークステージ 佐々木 哲哉

 彩りの秋も足早に過ぎ、静寂の冬に入ろうとしている。稲を干すはせ、漬物用に軒下に吊るされた大根、“からんころん”と大豆を脱穀する音、やっとこさ土から掘り出したさつまいもを手にしたときのみんなの歓喜と紫色の輝き、夕暮れとともに鮮明な色を一層輝かす柿やりんご‥‥。銀河の里の田畑の営み自体は毎年とさほど変わらないけれど、今年は暑かったことに加え、昨年以上にスタッフもメンバー達も動きが良くなり、適期に作業ができたことで、収穫物がより豊かとなった。
 「ほんとうに大切なものは 目にみえない」とは、「星の王子さま」の名言だが、農業の場合は「目にも見える」のがよいと思う。作物は正直だ。手をかけた(あるいは手抜きの‥‥)成果がはっきりみえて、節目や区切りがあるから飽きず、達成感がある。野菜や果物の色・かたち・匂い・味、田畑の様子、それらをとりまく里山の季節の移ろい‥‥視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を揺さぶられる。
 そして、そこにたずさわる人々がいると、農村は「風景」から「情景」に変わる。農作業に汗するワークのメンバーの姿、それを見守るグループホーム・デイサービスや特養のおじいさんおばあさんのまなざし、そこに関わってつながろうと奮闘するスタッフたち‥‥米づくり一つとっても、種も、苗も、穂も、そしておにぎりに至るまで、そこに人と人との関わりがあれば、そこから「ものがたり」が生まれる。苦労したぶんだけ作物も人間同士の関わりも、ただの商品やこなし作業ではなくなり、管理的なケアをも打ち破り、「ものがたり」や魂をもった永遠に未完の芸術になるように思う。「あまのがわ通信」は、その思いの詰まったわたしたちのひとつの表現ではないだろうか。

 風に吹かれ、土にまみれ、目にみえるものをとおして、逆に目にみえない何かが訴えてくる。湧き上がってくる。それは喜びや悲しみなど抑えきれない衝動的なもの、胸にあふれるもの、表現せずにはいられないもの、呻きといった本能的な魂の叫び‥‥もともと芸術とは、人間の営みの根源的なところから生まれてくるものだと思う。作物をつくることは、生きることであり、その姿は誇り高く、美しい。

「農民芸術の産者‥‥われらのなかで芸術家とはどういふことを意味するか‥‥
職業芸術家は一度亡びねばならぬ
誰人もみな芸術家たる感受をなせ
個性の優れる方面に於いて各々止むなき表現をなせ
然もめいめいそのときどきの芸術家である
創作自ら湧き起こり止むなきときは行為は自づと集中される
そのとき恐らく人々はその生活を保証するだろう
創作止めば彼はふたたび土に起つ
ここには多くの解放された天才がある
個性の異る幾億の天才も併び立つべく斯くて地面も天となる」
宮澤賢治 「農民芸術概論」より

 いま日本の農業や農村は、過疎化や後継者不足によって集落・田畑の維持が厳しい。追い打ちをかけるように「TPP」(農産物輸入の自由貿易)の参加による壊滅的な危機が予想されている。農業が自然の力や地域などの影響を受けざるを得ない以上、拡大やグローバル化には限界があって、小さな農家や兼業農家、都市から離れた農村は淘汰されつつある。
 「ただ作ればいい」という農協との馴れ合いや、国からの補助金に依存した農家・農業の体質にも一因があるが、農業を商品経済の枠のなかだけで捉えて農作物や労働が管理されて不効率なものが切り捨てられていくなかで、自然と共に積み上げてきた農村の暮らしや智恵はどうなってしまうのか‥‥。

 4年前のあまのがわ通信に、理事長は岩手に移住した20年前を振り返り「暮らしは残っていなかった」と語っている。「農に根ざした福祉の実践」とは何か、あらためて問い直したい。「暮らし」も農業も、生きることと直結している。銀河の里の農業は、レクやイベントでもあり、自己完結的な家庭菜園でもあり、収入を得るための兼業農業でもありと、多面的な意味を持っている。しかしその本質は生きることへの深い問いかけと情熱ある挑戦だと思う。「暮らしを大切にすることで、便利で簡単な生き方から脱却し、リアルな人生の可能性を開けないものか」‥‥里において利用者とともに、支援してくれる方々・消費者とも、多くの未知の方とも、もっとつながる関係を意識して、土の上に立ちたい。そんな思いを綴ったこの通信とともに、「ものがたり」をもった農作物や総菜加工品などを、味や品質を追求しつつ、そこに商品を越えた価値や関係を育みながら、長く続けていける農業を志していきたい。

慣れた手つきで脱穀作業


軒下に吊るされた大根
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