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ゲスト記事 回生【2010.12】
認知症介護研究・研修東京センター 永田 久美子

 東京で働く私の職場の郵便受けには、連日、たくさんの分厚い研究報告書や資料が届く。そんな中で花巻市幸田から届く「あまのがわ通信」は、異彩を放っている。
 封筒そのものが銀河の里の風を運んできてくれるようで、封筒を手にすると、いつも一瞬、深呼吸してしまう。そんなはずはないけど、かつて訪れたことのある銀河の里の畑の地面や日なたのにおいがしてくるような気がする。
 そして封筒を空ける時、『今回はどんな内容かな?』とワクワするとともに、少し冷やりとし、自ずと背筋が伸びる。『自分が日々、そして今の時間、何をし、何をしようとしているのだろう?』。
 そんな自問自答は、「あまのがわ通信」の表紙の写真で木端微塵になる。紙面から写真のご本人が躍り出てきそうだ。漲る力、眩しい笑顔、やさしい目・・・。
 記事を読みたい気持ちを抑えつつ、ページをめくり、まずは写真の上ではあるけれどお年寄りや職員さんに、出会う。一枚一枚、どなたかがカメラのシャッターを押してその瞬間をとどめてくれたおかげで、暮らしに息づくお年寄りと職員さんの姿に触れることができる。
 お一人おひとりの自在な姿に、ひきこまれる。人は、老い、どんなことがあっても、こんな光を宿しているんだ。見ているこちらも、顔がほころび、ふつふつと元気が湧いてくる。
  銀河の里では、日常のあたりまえの光景かもしれない。しかし、そうした姿とあまりにも違うお年寄りや職員の姿を目にすることが多い私にとっては、「あまのがわ通信」の紙面のお年寄りと職員の姿は、とても尊い。
 写真の場面、そして銀河の里の日常の中で、何が起きているのだろうか。本当は飛んでいきたいが、それが叶わぬ私は、紙面の記事につりこまれる(きっとこの通信を手にする多くのご家族もそうなのでは・・・)。
 「あまのがわ通信」の記事は、施設の活動紹介とは似て非なるものだ。「施設の活動」ではなく、お年寄りと職員とが日常の中で、そこで、その時(生)を共にしたからこそ生まれた「人と人との物語」、唯一無二の生の証のように思う。職員が綴った文章は、お年寄りが、どんな風景の中で、どんな姿でどんな内なる思いをいだいているのか、その傍らで職員が何を感じ、どう動き、お年寄りと職員に何が起き、どう変わっていったのか、ありありと伝えてくれる。
 それらは、日常の中でお年寄りと職員との間で生まれては消えていく無数の出来事のほんの一端に過ぎないことだろう。それがこうした記事として表現され、その時間を共にできなかった人にも分かち与えてもらえることを有り難く思う。
 職員の内には、文字に現しきれなかった諸々のこととともに、お年寄りとともに体験した大切な何かがきっと刻まれていることと思う。日々、大地を耕し、種をまき、小さな芽を汗して手入れし続けた、その月々の結実の一つ一つが通信の記事。銀河の里では、林檎や米やねぎなどの新鮮な農産物以上にかけがいのないものが育っているのだと思う。
  かんかん照りの中でも瑞々しい人、風雪の中で凍てついたからだを温めあう人、消えいりそうな灯をひたすら守る人、努力が消し飛ぶような不条理の中でもそれらを生き抜いてきたお年寄りに学びつつ新たな智恵を生み出す人、刻々と変化し視界が曇る天候(世)の中でも進むべき星を見失わない人・・・一緒に暮らさない者にははかり知れない、もっと生々しく豊かな生き者(人)が住まう場が銀河の里であることを、あまのがわ通信のこれまでの100号が伝えてくれている。
 通信は、銀河の里の便りであるだけでなく、これから老いの向かうすべての人や、お年寄りの生が宿る場で働く全国の者にとってのかけがいのない道標だと思う。
 今、介護保険や医療保険の制度改革にむけた審議と作業が急ピッチで進められている。「生活支援」、「地域包括ケア」、「高齢者の尊厳」、「認定」、「介護職員の質の向上」といった言葉が飛び交っている。一人ひとりのかけがいのない暮らしを支え、本来は人に漲っている豊かな生を解放するために重要なはずの制度が、真逆な方向に流れてしまいかねない。お金がないからではない。人の命と暮らし、つながりの実相と可能性のあり方が変わってきている変化に制度と人が追いついていない。野から遠くみえない誰かが作り操る制度のあり方の変わり目にきている。
 これからも大地を踏みしめながら、お年寄り、家族、地域の人、職員が共に土を耕し、智恵と果実を育て、出荷し続けてほしい。貴重な出荷物のひとつ、あまのがわ通信が、1号の原点から100号、101号・・・その先へ。1号1号に記されるお年寄りと家族、職員の幸いを東京の地から祈るとともに、戴いた野の風と恵みをこの場からも出荷し、耕し続けて行きたいと思う。 萎えた時は、空の銀河に思いを馳せながら。
 
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