トップページ > あまのがわ通信 > 2010年11月号 念願の里帰り・より子さん

念願の里帰り・より子さん【2010.11】
グループホーム第2 北舘 貞子  

 九月の初め、より子さん(仮名)と私と私の娘との三人で食事に出かけた。
 素敵なワンピース姿でメイクもバッチリ決め、明るくお茶目なより子さんだった。腹がでてきたのを気にしながらも中華料理を楽しんでいた時、「来月、釜石の家に帽子とバックを取りに行きたいから連れてって。家に泊まって欲しいけど、電気もガスも止まってるから何処かに泊まってもいいね」と笑顔で提案してきた。
 私が「日帰りでもいいんじゃない?」と言うと「あんたのお母さん、つめたい人ね」と娘に向かって不満げな顔を向けていた。
 より子さんは、夫を亡くしてひとり暮らしをしていたが、息子さん娘さんが彼女を心配して銀河の里に入居となった。里ではいろいろと楽しみを見つけ、ディケアに出向いたり、美味しいものを食べたり、気分転換の外出、外泊をしているが、釜石の家はご主人と暮らした思い出がいっぱいの街で、思い入れは並大抵ではないはずだ。この時、彼女のこころは釜石にワープしていたに違いない。

 その思いを叶えようとより子さん、新人スタッフの万里栄さん、私の三人で釜石の民宿を予約した。当日、十月七日、朝からより子さんはピンクのスーツにベージュのブラウスで待っていた。「素敵だね、凄く若く見えるよ」と言うと「フフフ・・・口が上手いんだから〜 まったく〜。準備できたから早くいくべ」と満面の笑顔だった。本当に楽しみにしていたんだな・・と感じた。
 途中、遠野で紅葉狩りの下見をして釜石に向う。車の中は楽しい雰囲気。ああだこうだと女三人の口は休まらずおしゃべり大爆発。

 より子さんの家に行く予定だったが「家に寄るの明日でいいよ。せっかくだから海に行こうよ。釣するんでしょ?」と言ってくれる。釣り好きの私は嬉しくて、花呂部漁港に向かい釣りを楽しんだ。より子さんと万里栄さんは初めての釣り(?)で小鯵が沢山泳いでるのが見えると「あっ居る居る!」と大喜び。けど、餌は食うけどなかなか釣れない。「なんでよ。こんなに居るのに」と飽きて、椅子にデンと座って「監督してっから、あんた達やってて」 と 他の釣り客と話をする、社交的で明るいより子さんだった。ふと「海、眺めたったな・・・」と語ったのが印象的だった。
 民宿の食事は品数も多くボリューム満点でヘルシー。大満足。「次くる時も此処でいいな」と言うより子さんに、我々二人は言葉に詰まりながら、目を合わせてにっこりした。

 翌朝、5時により子さんと私は市場に行った。市場で「あれぇ、より子さんじゃないの?」と女性に声をかけられた。「あら。久しぶり〜〜」息子さんと同じ部活だった人のお母さんらしい。「元気してるの?」「今何処に居るの?」「息子さんは?」のやり取り。思わぬところで出会った昔の知人、とてもうれしそうに話し込むより子さん。彼女が生活してきた町なんだと改めて感じた。買い物を済ませ知人に「じゃあ、元気でね」と挨拶しながら少し寂しそう。「もっと話してもいいんだよ」といってあげればよかったなと後で後悔・・・・

 宿を出て向かった彼女の家。
 長年誰も住んでいない家。二階建て庭付き、多少草は伸びてはいるが綺麗に整理されている。家に入ると誰も住んでいないとは思えないほど生活感が残っていたのに驚く。キッチンユニットは新品で最新式。 壁の写真は、着物姿の素敵な女性、若い時の彼女とご主人の写真だった。
 家を後に、近所の市場へ。 そこで、また知人に合う。「元気だった、今何処に居るの」と世間話。でも、朝と違い話がはずまない。ご近所さんには、逢いたくなかったのかな?

 帰りの車中・・思いを残して釜石から遠ざかるより子さんの気持ちは計り知れないけど、今回の小さな旅が、少しでもいい思い出として心に留まるといいなと、後部座席で窓の外を眺める彼女の横顔を見ながら思った。

釣りを楽しむ二人



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