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リンゴ支援要請の旅【2010.10】
ワークステージ 米澤 充

 今年はリンゴ栽培をワークステージの利用者と共に始めた。春の植樹から始まり、開花後の花摘み、摘果作業、果実に日光を当てるための葉っぱ取り、玉回しと続いた。どれも人手と時間がかかる作業だったが、おかげで今、収穫の真っ只中だ。
 当初は、地道で細かな作業が続き、花摘みや摘果の際に判断力が必要であるため、利用者にとって難しいのではないかと思われた。しかしみんな予想以上の作業へのはまり具合で例年以上に高品質で甘みのあるリンゴが収穫できている。
 利用者と共に作業している中、今年で65歳(ワークステージ最年長)となった塚地さん(仮名)の動きに目がいった。寡黙で自分を表現する事が少ない塚地さんであったが、今日は「○○の作業を行います」と伝えると黙々と作業に取り組む。他の利用者はやり方をその都度聞いてくるのだが、塚地さんは聞いてこないので少々心配ではあったが、作業は出来ていた。
 作業の休憩中に「塚地さん、昔リンゴの作業やってたの?」と聞くと、「やってた」とニコッと笑い小さな声で一言。やっぱりそうだ。どうやら、塚地さんは父親が亡くなるまでリンゴ栽培の手伝いをしていたようで、花摘み、摘果、玉回しなどの作業は何年も続けてきた、リンゴ栽培の大先輩である事が分かった。
 先日、甘酸っぱくて加工で好まれる「紅玉(こうぎょく)」の収穫を行った。収穫作業は意外と難しいしコツがいる。リンゴの頭からひょいっと出ている軸を残さなければならず、しかもその軸の近くには5mm程の来年の芽も出ているため、その芽をかかないように、軸に指をあてがって回しながらもぐ。収穫に慣れてくると、片腕に収穫カゴをかけ、反対の片手でもげるようになるのだが、まれに軸が極端に短いリンゴがあり、無理やり片手でもごうとすると勢い余って枝まで折ってしまう事もある。
 塚地さんは、両手でリンゴを一個一個優しく丁寧に収穫していた。収穫カゴは地面に置き、収穫したリンゴは脚立の平らな部分に並べ、ある程度たまったらカゴに入れていた。他の利用者に比べ収穫スピードは遅かったが、その丁寧な収穫はとても印象的だった。収穫作業は性格が現れるのかもしれない。


 今年からワークで取り組み始めたリンゴ栽培であるが、障がい者の就労や自立支援への取り組みの中核として行きたいと考えている。こうした取り組みを理解してもらい、流通ではなく、支援のネットワークで貴重なリンゴを買ってもらいたいと思いその方向性、可能性を探っている。
 そこで、9月12日から15日にかけて福岡、大分、広島と理事長と出向いて、出会った方にご支援をお願いした。その方々とのコミュニケーションはとても刺激的であった。
 博多で会った掛田さん御夫婦は理事長の学生時代の友人で、支援者のネットワーク作りに共感いただき、市内の精神障がい者施設に協力をお願いしてみたいと前向きなお話しをいただいた。障がい者施設などでリンゴを代理販売してもらう方法もマッチするのではないかと考えていたので、実現すればありがたい。
 大分では私の妻の友人のご両親で、佐伯市で300年続く糀屋を営む浅利さん御夫婦と会った。銀河の里の通信もよく目を通していただいている様子で、銀河の里の構想にも理解があり、話しが弾んだ。
 実際お店でも、市内にある知的障がい者福祉施設と手ごねみそを商品として協力して作っているということで、こねる機械を導入せずに手ごねを継続している話しを聞かせてもらった。仕事を通じて、障がい者の表情が豊かになり自信をもってくる感じが嬉しいなど、障がい者と作業する魅力などが語られ、へたな福祉施設の職員よりよほどまっとうな話しができて、感動だった。
 米糀ともち米でつくったオリジナルの甘酒を飲ませていただいたのだが、これがとても飲みやすく、ブドウ糖100%の甘みで、高齢者にもアルコールがないので向いているのではないかなどと発展的な話しがどんどん出てくる。岩手では大人と話していてこういう前向きな展開にならない。米やもち米を作っている銀河の里でも糀を作って、自前で甘酒製造に取り組むんだったら応援するよとまで言ってくれる。
 ネット販売やブログの威力などインターネットの活用法を熱く語っていただきながら御夫婦の知識と情熱に舌をまく感じで感動し、包むような暖かさに触れてありがたかった。
 広島の寺田さんは米店の社長さんだが、燃えたぎる熱のかたまりのような人で、「世の中なんもかんもおかしゅうなりょうりますで、なんとかせにゃいけませんわ」と広島弁で話しているうちに叫ぶような語り口になるので驚いた。「私は必ず現地に行って(商品を)確認します」と商売に対する凄まじい情熱を感じた。花巻にも11月に来ていただく事になり、障がい者のつくるリンゴに評価をいただき、商売の枠を超えた、支援ネットワークに繋がればと願う。


 障がい者の自立の仕事としてリンゴ栽培を成り立たせ、支援者のネットワークで繋げていく構想はまだ始まったばかりであるが、生産技術を徐々に身につけて利用者、職員ともに成長していきたいと思う。主力品種である「フジ」の11月の収穫が楽しみだ。

奥さんの浅利妙峰さんと「糀屋本店」の前で
 
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