トップページ > あまのがわ通信 > 2010年10月号 稲刈りで若返る?

稲刈りで若返る?【2010.10】
デイサービス 藤井 覚子

 今年も銀河の里に稲刈りの時期がやってきた。
 5月の田植えの時はなかなか天気に恵まれず、延期が続き3回ほど計画を練り直したが、やっと来た田植え当日は総勢で60名ほどが集まり大賑わいになった。若いスタッフ、高齢者、ワーカーさん達が作業を進めるなか、当初は応援のつもりで参加していたサエさん(仮名)が、よそ行きの白いカーディガンのまま、ズボンをまくりあげて田んぼの中に入って行った時は「ありゃりゃ」とスタッフは慌てたが、当の本人は「大丈夫よ」と田植えをしていた。そんな田植えの時から、みんなで稲刈りを楽しみにしていた。
 そろそろ稲刈りが始まるな〜と考えたとき、私は五七さん(仮名)のことが気になった。五七さんはずっと農業を営んできた方で、今年から銀河の里のデイサービスに通い始めた。他のデイサービスではゲームやレクリエーションなど皆と集団で一緒のことをするのがなじめなかったようで、「行きたくない」となったらしい。「農業をするなら手伝いに行く」ということで銀河の里にやってきた。利用初日からスコップと長靴を持参し、やる気満々。銀河の里デイサービスでは久しぶりに農業をガンガン引っ張ってくれる方の登場に、頼もしさを感じた。このところ利用者が増え、ホールが賑わう一方で、畑の方は草だらけで、なかなか手入れが行き届いていなかった。
 そこに五七さん登場。五七さんは畑を見るなり「こったにべっこな畑だってが」と少し残念がってはいたが、おかげでこの夏はトウモロコシがたくさん採れた。「こったにとれるとは思わなかったな」と嬉しそうな表情を見せてくれた。稲刈りは是非とも五七さんと一緒に行ってその表情を見てみたいと思った。
 これまでは、五七さんと畑に出る予定を立てている時に限ってなぜか雨が降ってしまうことが多く、稲刈りの時、雨じゃなきゃいいな・・・と心配だったが、当日は快晴の稲刈り日和。出かける前、意気揚々と小田島さんが「五七さん、今日は稲刈りだよ」と声をかけたら「稲刈りでなく草刈りか?」と草だらけの畑に苦労させたからか皮肉をかまされた。「じゃ、今行くのか?」と長靴をはき準備万端で田んぼに到着。田んぼに着くとすぐに鎌を持って田んぼに入った。その途端に真剣な表情に変わり、声も簡単にはかけられないくらいのオーラが漂っていた。仕事の邪魔をしてはいけないと感じさせる勢いだ。
 ひたすら稲を刈っていく後ろ姿を見ながら、農業一筋で働いてきた人生の誇りのようなものが滲みでて私の心にせまってくる。その姿をしっかりと目にやきつけたい、残したいという気持ちが自然に出てきて、夢中でカメラのシャッターを切った。 稲刈りが終わり「疲れたね」と声をかけると「こんけで疲れだって言ってられねんだ。まだ50なんぼだがら」と20歳以上若返っていた。
 それからも五七さんは長靴とスコップ持参でデイサービスへ来て、畑の様子をじっと眺めている。人は農産物を育てそれを食べて生きているのだが、今の私は大根を育てることさえできない。毎日、畑に入り、草をとり、水をやり、手をかけなければ何も育たない。日々の手入れが収穫に繋がり命に繋がる。収穫した今年のもち米を感謝して食したい。
 そして、デイサービスでの人との関わりも農業と同じだなと感じる。よく観察し、言葉をかけ、変化や表情を感じていく中で深いつながりが「収穫」として生まれるのではないか。その過程は、農業の収穫に季節のめぐりが必要なように、時をじっくりと待ちながらも丁寧で真剣な関心を向け、細やかな気持ちのやりとりが大切であることを、田んぼで稼ぐ五七さんの姿に教えられたような気がする。  

小昼届けで記念撮影
 
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