トップページ > あまのがわ通信 > パリの旅 最終回


パリの旅 最終回 【2008.12】

グループホーム第1 西川 光子
 

 2008年、私のパリの旅は30年前へのタイムスリップを繰り返しつつ、思わぬ自分自身の心の動きに驚かされながら終盤を向かえる。
 芸術の都に輝く2つの美術館、ルーブルとオルセーはパリの至宝と言われ、歴史ドラマを感じさせられる。絵画、彫刻等展示作品の数の多さもさることながら、かつて宮殿だった巨大で荘厳な建物に圧倒された。
 30年前と違っていて驚いたのはモナリザの絵の特別な厳戒態勢だった。周囲5メートルがロープで囲んであり近づけない。ロープの三方には人が群がってカメラに収めようとする人でごった返していた。囲いの中から不思議な微笑を放つモナリザが見えた。
 凱旋門、シャンゼリゼ通り、ルクセンブルク公園を散策し、ノートルダム寺院で最終日を過ごした。寺院では午後4時にミサが行われパイプオルガンの演奏を聞くことができるという。私にとってノートルダム寺院のパイプオルガンの音色は格別な思い入れがあり、今回の旅の中でも最も楽しみにしていた。”いよいよこの時がきた!!”とばかり期待で緊張していた。
 早めに到着したので寺院の塔に登った。高さ69メートル、386段の石段。狭くうす暗いラセン階段。石の中央がすり減っていて、どれほど多くの人が訪れたのか祈りの重みが伝わってくるようだった。塔の上からの展望は建物の繊細さが実感できて、寺院と一体になれるような格別なものであった。
 さていよいよ4時が近づき、塔を下って寺院の入り口にむかった。寺院前の広場一面に椅子が整然と並べ埋め尽くされ、予約席という張り紙。入り口には係員がずらり並んで、入場券を点検していた。なんと”今日は特別の日で招待者のみの入場”とのこと。ガガ〜ン。ショックにうちひしがれながら簡単に諦めることもできず、主人を置いて私一人交渉に向かった。門扉にしがみつき何とかならないかと必死に訴えたがダメだった。そのうち、私と同じ思いの人で広場は埋め尽くされ、招待者は人波をかき分けて入ってく。世界各国か大勢の神父が集まる特別な日。彼らが広場を一周して寺院に入るところから荘厳な儀式が始まる。広場にいる人々も皆ミサの参加者なのであった。ミサは4時間にわたって行われる。
 広場を埋め尽くした人々からは信仰への情熱が伝わってくる。ミサを受けたいという切実な気持を感じた。私は寺院内に入れないものの、広場に集まった人々の渦の中で神への信仰と情熱を体感しつつ敬虔な気持に浸っていた。広場には特大スクリーンが用意され、ミサの様子が映し出されていた。
 気づけば寺院前広場に並べられた椅子は満席となり、立ち見の人であふれて身動きがとれない。主人を捜すことが困難になってしまい、祈っている人々の中を探し歩くこともできず迷子状態でパニクッてしまう。
 致し方なく、広場脇の小高い場所に居座って待つことにした。ミサの終了時間は夜8時を過ぎる。下手に動けばすれ違いになりそう。9時には暗くなってしまうので不安がよぎったが、夕焼け空が暗がりに入るころ、主人は私を見つけてこちらに向かって歩いてきた。ミサの間、お互い動かずに別々に過ごしたがこの時空は尊いものと感じられた。
 30年前に残した思いを終結する意味合いの旅として訪れたパリ。このミサの時はそれを十分に達成してくれた。もうこれ以上良い旅はできないのではないかと思うほど深く心が動いた旅となった。
 銀河の里での多くの出会いを経験したことで、人間に対する目差しと感性を鍛えられ、この旅が”心の旅 ”として豊かなものになったのは間違いない。現場はありがたいものだとつくづく感じた。今回30年の一区切りの旅を経て、また新たな次の段階に向かって生きていこうと決意を新たにしたのだった。


 

第五回へ <<< 最終回
 

あまのがわ通信一覧に戻る

このページの上部へ


〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail:l: