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パリの旅 第二回 【2008.08】

グループホーム第1 西川 光子
 

 パリの初日の朝食は香ばしくパリパリと軽い歯ざわりのフランスパンで始まった。それにたっぷりのジャム、野菜サラダ、フルーツとスイーツ、入れ立てのホットコーヒーだ。
 食事はペンションの旦那さんと奥さんがどちらか交替で同席してくれて、身振り手振りでけっこう会話を楽しんだ。写真などを見せてくれて通じない言葉をつないでくれた。
 テーブルの上のお皿、ポット、パン用バスケットなどもヨーロッパらしさをかもし出していて、紙ナプキンもカラフルで華やかさがあり、おしゃな心地良さを感じさせられた。


 1日の予定をペンションのオーナーに話すと、バスの時刻を調べてくれてバス停も教えてくれた。ありがたく感じながらバス停に向う。途中、早朝にもかかわらず一目で物乞いとわかる薄汚れた身なりの中高年の男性が私達に近寄ってきた。いまにも”いくらでもいいです”と手をさしだす勢い。平然と堂々と掛け合ってくるのにドキッ!!したが無言で・・・通り過ぎた。いわゆるホームレスの人だと思うが、日本ではこのように迫られることは滅多にない。迫り方にお国柄の違いを感じた。
 バス停は簡単に見つかった。それは風除付きで椅子も沢山備え付けてあり、ゆっくり休めるようになっている。バスの利用頻度の多いのが解る。バスに20分も揺られると町の中心部に到着。
 街並みにはビルは全くなく石造りの建物ばかりで、1階から2階にかけて手の込んだ彫像が飾られており、風格と芸術的雰囲気が漂い、歴史豊かな西洋を感じさせる。


 今日の目的は、パリ発祥の地と言われるシテ島にそびえるノートルダム寺院へと向かった。中世フランス建築の最高傑作といわれ、200年もの歳月を費やして完成されたというその塔の姿が目に飛び込んできた。30年前と全く変わることのないその佇まいに息をのみ、心を奪われる瞬間であった。ノートルダムはゆるやかに流れるセーヌ川の流れにたたずみ、夢の世界への入口のようでもあった。しばしそのシルエットに吸い込まれて眺めていた。少し場所を移動して眺めると又別な雰囲気になって、不思議な魅力を感じた。
 平日だが、世界中からの観光客でにぎわい、セーヌ川の遊覧船は満員の人々を乗せ華やかな雰囲気だ。
 30年前、このノートルダム寺院前の広場に訪れたときはまだ殺風景で、ボーとのんびり過ごせる感じだった。私は寺院の中から聞こえてくる荘厳なパイプオルガンの音色に酔いしれ、ぼんやりと寺院の正面の姿に見入っていたその時、新聞紙を広げた数人の男の子達にあっという間に囲まれ”えっ何?”と思っているうちに彼らはさっと消え去った。
 何だったんだろう・・・とバッグの中を見てみると財布がないではないか!! えっえっどうしよう。警察官に訴えたが”財布は無理”とあっさり言われた。悲しみといらだちと不安で途方に暮れたあの日のことが思い出された。


 

 今回は全くと言っていいほどそのような危険は感じられず、そういった子供達の姿は見えない。観光客の増加と共に警察の取り締まりが強化されたらしい。しかし私はそのときの苦い体験から、自ずと肩掛けバッグを握りしめ、知らず知らずに手に力が入っている。 今回の旅はどのような心境の自分に出会えるのか、というどこか自分を客観視する旅でもあった。こうした感性は「銀河の里」において、心のひだをそっとすくい上げたり、イメージでその人の中に寄り添ったりと、人間の真髄に迫ろうとする日々の影響によるものだろうと思う。
 それにしても30年前、ハネムーン旅行なのになぜ一人ノートルダム寺院の前でボーとしていたのか・・・・。それは私にとって人生最大といってもよい出来事だったかもしれない。その心境を回想しつつ、心の旅路をたどってみたいのだが、その訳は次回で・・・。                                  
つづく
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