トップページ > あまのがわ通信 > 超コミュニケーション?!な日々〜その2〜


超コミュニケーション?!な日々〜その2〜【2008.08】

デイサービス 中屋 なつき
 

 「あやしい」「くさい」が口癖のデイサービス利用者のレイ子さん(仮名)。だいたいが辛口系な性格の女王様タイプといったこところだ。特に男性に対して厳しい。同じテーブルに座ろうものなら、「あんた!何でここに来んの?!」と険しい顔でそばに寄らせてももらえない。
 テレビの男性キャスターにも「ふん、いい加減なことばっかし!」と叫び、女性キャスターと隣り合わせで話していると、「何やってんの、いやらしい!離れなさいよ!」とテレビに向かって拳を振り上げる。


 ある日、いつになく静かにテレビを見ているので、そばへ行っておはようの挨拶をした。テレビから私の顔へ視線が移って、一瞬の間を置いた…その後「パソニック!」と突然言った。「???…は、はい?なんだって?」私は目が点になって聞き直す。 「パソニック、そこに書いてあるでしょう、だから大丈夫」 テレビに「Panasonic」のロゴ表示があり「あぁ、そうだね、ホントだ、書いてあるね…」
 気を取り直しソファの隣に腰掛けて、しばし一緒に高校野球観戦。
「若い人たち頑張ってらね」
「そうよ、パソニックだもの、いっつもだから大丈夫」
 かみ合わない会話ながらも応援する気持ちは一緒だと私は感じるのだった。
 そのうち、ふと膝に置かれたレイ子さんの手元を見ると爪が伸びている。思わず「あら、結構伸びてるね」と、その手をとった途端、 「いいの!」と私の手を振り払う。
「これが長いおかけで勝負に勝つんだから!」掌をピンと張り、指を立ててこちらにかざしながら、
「これが白いうちは野球が負けないの!」
「???…再び目が点でござるよ、レイ子さん」
 私は半分独り言のように言いながら、これじゃ今は爪切りできないなと一旦諦める。
「そ、そうだよねぇ、長くて白いもんねぇ」自分でも何を言っているのか解らなくなる。

 10分くらい時間が過ぎて、気持ち切り替わったかな、と探りつつ、持ってきた爪切りを無言でヒョイッと目の前に出して見た。すると・・・。 「おや、あんた、切ってくれんの?」と返ってきた。パソニックも野球もさっきまでのこだわりは消えていて、笑顔で手を差し出してくれる。ちょっと拍子抜けしつつも笑顔を返し、無言のまま爪切り開始。何かしゃべったら、レイ子さんの気が変わりそうな気がした。
 「案外と上手にやるねぇ、最初はなんだかあやしいと思ったけんども」 片手が終わるとやっと一安心、話をしても大丈夫な感じになる。
 「そうでしょ、上手いんだよ、私」と調子に乗ると、「肉まで傷つけないように、しっかり!」と気を引き締める一言。「女同士だから大丈夫!長くて白いもんね、パソニックだから!」訳のわからないことを再びつぶやく私。それにしっかりうなずいてくれるレイ子さん。


 なんだかどこか繋がった余韻を残して、無事に爪切り終了。かみ合わないけど繋がれる。この不思議な感じが面白くてたまらない。今日もどんなズレ具合を披露してくれるかレイ子さん、思いっきりこだわり続けてほしいと願う。
 正解を脅迫的に求め、ズレることを許さない現代社会はあらゆる事から繋がりを失ったが、思いっきりズレながらそのズレのおかげできちんと繋がれるレイ子さんに人の不思議な関係を教わる思いがする。ズレてはずすことが、逆説的にきちんと繋がることに関わっているに違いない。ズレることが許されなかったりすると、人間は繋がったり理解し合ったりすることもできないのだろう。

〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail: