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銀河の里は「個室ユニット型特養」にどう夢を描くのか(2) 【2008.08】

理事長 宮澤 健
 

 ユニット型特養という新しい制度が生まれる中で、これがこれからの未来型ケアの場だと期待できるかというと、期待感や希望が全く持てないのが現状で、これはいったいどういう事なのだろうかと考え込んでしまう。
 これから本格化する高齢者の介護をただの問題としてしか制度は扱っておらず、そのラインから出てきた問題解決方法、つまり対策でしかないことが大きいだろう。そんなものから未来への夢や、展望は生まれようがないない。
 しかも高齢者や介護者にとってよりよい環境の整備という前向きな姿勢よりも、どうやれば社会保障費を抑えられるかという、経済的状況からの施策の上に出てきているので、その具体的内容を知れば知るほど、近い将来の高齢者介護の実態は惨憺たる状況に陥ることがありあり見通せる。
 利用者からすれば、経費負担は甚だしい上に、しかも個室であるのはいいのだが、それだけの個が日本人に育っているかどうかも疑問で、独立ではなく孤立、孤独化する可能性は充分にある。おそらく高齢者は孤独地獄のなかでほったらかしにされ、バカ丁寧な言葉使いとは裏腹に、関わりや関係性を遮断され、人生がなんたるか、自分とは何だったのかという人生の最終章の総仕上げの仕事を放棄せざるを得ず、あの世ともこの世とも繋がりを絶たれて行き先を失って悶絶の苦しみを味あわされることになるだろう。
 そうした人間のもつ心理的課題を制度が全く扱えないのは仕方ないにしても、現場の介護の専門性がそれらを全く語り得ないのはなぜなのか。人間の心は一切ないことにして事が進んでいく時代性があるようだ。
 自らの死、あの世という課題は、かつては宗教が担ってきた重要テーマであった。それが個人に極端に委ねられたのが現代である。我々は諸宗教が語るあの世を信じる事は難しくなったし、日本人がご先祖様になっても尊敬される可能性はほとんどない。心のよりどころとして家族は最後の砦だが、それも、個々が生き延びるのに精一杯で、世代間の介護や養育、教育に丁寧に手がかけられなくなり、家族も機能化して、人間としての関係性をほとんど失いつつある。介護が社会化されたのは、時代の要請で会ったはずだが、介護が持っていた、心の繋がりを含む全体を捉えていかなければ大きな過ちにつながるに違いない。作業としての介護の部分を社会化するだけでは、繋がりという人間の基本的な精神の支えを失う可能性があることを忘れてはならないはずだ。


  人間は出生を祝い、成人を祝い、結婚を祝い、死を悼む。自分が死ぬことを知っている人間にとってそれぞれの通過に意味を見いだす必要がある。老い、病み、死に向かう過程は単なる通過ではすまない何かを人間は持っているはずだ。制度やシステムはそうした象徴的な意味を見落とす。第三者評価も情報公開も書類の整備を見るだけで、生きている人間には目をくれようともしない。いま、福祉の介護現場の周辺は人間否定と生命の否定が想像を絶する勢いで渦を巻いている。こうした事を10年も続ければ社会も人間も関係性や生命感を壊滅的に失ってしまうだろう。そういう所に人間が人間らしく生きていけるはずがない。福祉施設はこのままでは数年で最も人間を疎外した、加虐的な組織、社会となってしまう。そしてそこで働く介護者のほとんどが、非人間的な人格を持たざるを得ず、日常的な虐待が行われる恐れは現実の事になりつつある。
 命を見つめるまなざしを失うということはそうした危険をはらんでいる。その最も危険度の高いのが福祉施設という現実がある。我々はあくまで人間とその命を見つめその尊厳を勝ち取る戦いを今求められているといていい。


 特養ホームが4人部屋より個室がいいのは当然だとおもわれるが、安易に個室になればいいと考えるのは浅はかだ。日本は元々個室の文化ではなかった。戦後個室化が進んだが、それが良かったとは言えない面が多々ある。子どもが閉じこもったり、話をする機会がなくなったり、父親の存在感が全く薄くなったりしたのは個室を安易に取り入れた影響も大きいはずだ。
 自我の確立が大前提に育つ西欧においては、個室があろうと個と個はきちんと向き合い、やり取りを失わないだろうが、自我が曖昧で、どことなく繋がっている感じでまとまっている日本人に個室が入るといっぺんに繋がりが消えてしまう。
 戦後の住宅様式が日本人の自我のありようと絡んで、家族の繋がりや関係性の喪失に大きな影響を与えてきたことも反省しながら、個室化に関しては安易に考えるのではなく、様式の革命的な変化にどう対応するのか、意識や、考え方、生き方まで深い変容を求められる事だとまず理解しておく必要がある。
 
 
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