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超コミュニケーション?!な日々〜その1〜 【2008.07】

デイサービス 中屋 なつき
 

 銀河の里で働いて8年目、今年はデイサービスの担当。認知症対応型の、近隣でも珍しい形のデイサービスだ。世間の人から「大変だね」などとよく言われるが、大変を超えると実に楽しくおもしろいのだが、確かにどう超えるかが難しい・・・。普通の世間ではない、次元を超えた超コミュニケーションがきめてなのだ。


  昼食後…大抵の人たちがお昼寝する、一日の中でも一番ゆったりする時間帯。暖炉前に腰掛けて居たケイさん(仮名)の隣に座ると、たちまちケイさん独特な世界が展開する。
「ねっちゃ、ねっちゃ。おめさん、いっちゃ、いっちゃ」
「そうだっか? ケッコさんも、いっちゃ、いっちゃ」
 リズムの感じがなんとも心地いい。何が良いんだかは解らないまま、我々は繋がった感じになる。近くにあったぬいぐるみを持って、
「めんこちゃん、めんこちゃん、めんこちゃ〜んちゃんっ、」
 …とリズムに合わせてぬいぐるみを動かす。すると、私は消えてぬいぐるみとケイさんの会話が展開されてくる。
「あいや〜、なんとおめさん、まなく玉(目)のめんこいこと〜」 (ぬいぐるみをピョンピョンと動かす)
「いっちゃ、いっちゃ、元気良くて、いっちゃ〜」 (ピョンピョンのピョンッ)
 ケイさんのなんとも言えない笑顔があって、ぬいぐるみを動かしている私も楽しくなる。ところがケイさんが急に真顔になって、
「ねっちゃ、おめ、これ、ちゃんとしまって、家さ持って帰らねんば」
というので驚く。
 どうやら、大事な物なんだから何かに入れておけ、ということらしい。
「袋っこだとか、風呂敷っこだとか、なんでもいんだ、ちゃんと隠れるやつ」
「隠すの?」
「ほなんだ、ほなんだ、見えないようにしてなさ」
 急いで事務所から風呂敷をとってきて、ぬいぐるみを包んで「これでいっか?」と聞く。
「いんだ、いんだ。それ、人がいっぺぇ居たからな、そっと行ってんじぇ」
「行くの? どこに?」
「どこって、おめ、おめさんの家さ」
「???」


 

 戸惑いつつも真剣なケイさんの表情に押され立ち上がる。するとケイさんも席を立って、
「重てんだ、重てんだ」と立ち上がる。風呂敷を斜め掛けに背負って結わえると、ケイさんは後ろから手を添え、小声ながら迫力のある声で「それそれそれぇ〜!」とかけ声。私はそれにつられて歩き出す。
 なんとも奇妙な珍道中!「それそれ」とケイさん、「ほいほい」と私。ケイさんの独特なリズムに、いつの間にかのめり込んで、ふと気付いたら、他の職員も利用者さんも笑顔で見ている。こっそり「なんなの? どうしたの?」と訊かれるけど、「いやぁ、確かに…、なんだろね、わかんない…」としか言えない感じ。ケイさんはそんな周りの様子はいっさい気にせず「それ、そ〜れ!」と小声で追いかけてくるリズムと歩調。


 

 そのまま巡りながら、昼寝から起きてきたタツさん(仮名)の前をほいほいと素通りしたのだが、ケイさんは私の知らぬ間にタツさんの隣にチョコンと座っていっぷくしている。「あ、あれっ? 」と戻ると、二人の会話。 「おめさんたち、何、大事そうに持ってらった?」 「あのね、これはね、このねっちゃの着物だとか、そういうの」 「はぁ〜、ばっちゃんがこしらえてやったの?」 「そうだ、そうだ、縫ったり編んだりしてな」 「はぁ〜、おれも機織りだば、若えころ一生懸命やったったどもなぁ」 「そだっか、そだっか、いっちゃいっちゃ」


 

 二人はすっかり会話が盛り上がり、だんだんに私も風呂敷も目に入らなくなってきた感じ。珍道中は一段落? 二人を残して私は、風呂敷を持ったままテーブルの昭さん(仮名)のところへ行ってみる。「どっこいしょ、あぁ、重かった」と風呂敷包みを下ろす。 「お嬢さん、それ、なんだ?」と、少し面食らったみたいにして昭さんが言う。 「へへ…、子供、おんぶしてた」と、ちょっとイタズラ心で私。 「お嬢さん、子っこ、出たってか?」
 そこへちょうど事務所に内線が入ったので、「ちょっと行ってくるね。昭さん、子供みててけで」と言うと「あーっ?」と急に困った顔して、「おれは知らない」とあわてて断る昭さん。わざと聞こえないふりしてその場を立ち去ると、「だめだ、だめだぁ…」と慌てふためく昭さんの声が後ろから追っかけてくる。いつも「子っこつくれお嬢さん」と下ネタの昭さんだが、子どもをつくるのは好きでも預けられるのは苦手らしい。電話にむかいながら、ぶふふ、と一人で笑いをこらえた。


 

 この一連の出来事が、何とも言えない心地よさで、今も身体に残っている。意図した訳でもないのに起こってくる関わりの中で、次々に人と人を繋いでいく出来事。その中に身を置いたときの「?」に真剣に向き合ったとき、常識では起こりえないモノが見えてくる。これからもこの難しさと面白さを味わっていきたい。 (続く)
 日常のコミュニケーションではない、なにかを超えた超コミュニケーションがデイサービスにはある。それは言語で切りきざまれるような、現代の言葉の使い方とは全く違った、心と心が繋がっていくような深いコミュニケーションである。
 認知症という現象はそういう関係を通じて表層的で深みを失った現代人の関係性を問いかけているように感じる。それは現代の我々が何を失い、人間にとってなにが本質的に大切かという問いかけでもある。
 認知症介護の現場はそうした問いかけに真摯に向き合い、取り組むことで次代の新たな文化の基盤を見出していく使命があると思う。大げさに聞こえるかもしれないが、そうした可能性をもった分野は今のところ他にそうそう見出すことはできない。その位の覚悟をもって取り組む必要はあるはずだ。
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