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もち米作りの始まり【2008.06】

デイサービス 三浦 由美子
 

 生まれてはじめての田植えはとても楽しかった。正直もち米の手植えがこんなにも意味のあることだとは思いもしなかった。当日みんなと田んぼへ出てみて、一緒にものを作っていくことのおもしろさが少しわかった気がした。


 前日の夜に全部署の農業担当と職員で打ち合わせをしたが、田んぼに入る人、陸にいる人、車担当、配車、参加者、当日の準備など細かな確認を行い、里にとっても大きな行事であるとそのとき感じた。
 当日デイサービスの利用者さんと田んぼへ着くと、ワーカーさん、グループホームの皆さんですでに田植えは始まっていた。私は早く田に入りたくてワクワクし、急ぎつつ冷静にデイの利用者さんを車から降ろし田のあぜまで移動した。私とペアになったアキオさん(仮名)はかごのいすに座り、じっとみんなの植える様子をみている。いよいよ田に裸足で入ると、田の土はひんやり冷たく気持ちよくふわふわしていて面白い感触であった。アキオさんから一ヶ所一ヶ所植えるたびに苗を渡してもらい、「アキオさんこの辺でいいですか。」と植えながら聞くと「いい。」とうなずきながら返事をしてくれる。室内では、力が入り誰かを殴るまねをしたりする方だが、田ではそんな動きはないどころか優しく見守っていてくれた。近いと手渡しで渡してくれ、少し離れるとふわっと投げて渡してくれた。一緒に田植えをすることで、アキオさんとも少し近づけた気がする。あぜを見渡すと、サトさん(仮名)やヨシコさん(仮名)たちも田植えを見守ってくれている。今まで農業をしてきた高齢者の皆さんは、田を見る目がとても優しい。
 そのうちワーカーさんも苗を手渡ししてくれ、気がついたらグループのノモさん(仮名) も手渡ししてくれ、トキオさんからも苗をもらって一度に沢山苗抱えてのてんやわんやぶりが面白かった。「トキオさん!」と呼んで手を差し伸べる私、後ろで「三浦さん!」と呼ぶワーカーさん。横で黙って苗を差し出しているノモさん。みんなから苗をもらいたいから高速で動く私。
 ノモさんには餅つきの時に話しかけたが、せっせと餅を丸め言葉を返してもらえなかった。だが田んぼでは苗をどんどん渡してくれた。田植えを通じて、ノモさんとも関われた。
 そのうちワークの高橋さんが、アキオさんに苗を渡してほしいとジェスチャーをしている。そこで私が、「アキオさん!私さ!」と手を伸ばす。高橋さんも「アキオさん!こっちさ!」と競い合いになり、アキオさんは二人に言われて投げようとして投げられなくなり、迷って「わかんねえな」と横にいるスタッフに話しかけていた。アキオさんは苗を植えやすいようにちぎって渡してくれたこと、これでいいのか聞くと「うんうん。」とうなずいてくれたこと全てが嬉しかった。


 こうして田んぼでは、いろんなエピソードが沢山みられたが、普段とはまた違った生き生きとした表情が見られた。ワーカーさんと高齢者の関わりなど一緒にもち米の手植えをみんなでできたことは本当に意味のあることだったと思う。そして私にとって、米作りの始まり、食の始まり、農業の始まりを体験できたことは貴重だったと思う。田んぼでは私の下手な代かきのため雑草が残って生き生きしている。これを入って取ってしまって、この田のもち米の収穫を楽しみに待ちたい。


 

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