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雪のない4回忌【2008.04】

グループホーム第1 西川 光子
 

 今年も3月12日、私も含め4人のメンバーが集まった。勤務体系からしてそれぞれの都合の良い日を決めるのには、シフト変更したりと難を要するのだがこの日ばかりは「3月12日ネ!!」だけで決まってしまう。
 毎年同じ居酒屋の同じ小部屋。おまけに座る席もおのずと同じ席という無意識のこだわりがある。この集いの始まりは4年前にさかのぼる。銀河の里のデイ利用から始まり、グループホームに入居して共に暮らした、 正吉さん(仮名)をめぐる会合なのだ。

 正吉さんはデイサービス、グループホーム両方を通じて田んぼ、畑、と農業に強い関心をもって関わり、冬には雪かきを必死でこなすなど、暮らしのなかで懸命に生きようとしていた。しかし体力・気力の変化と認知症も進んで、グループホームでの仕事を定年退職ということになり、儀式としての記念行事も行い、同じ「銀河の里」の中のグループホームからもう一つのグループホームへ移動して、われわれ4人のメンバーと新しい暮らしを始めたのだった。
 われわれ4人のメンバーとの付き合いは年月こそ短く、1年たらずのおつきあいでしかなかったが、そこでの出合いの日々は壮絶そのものだった。 正吉さんは来た日から 自分の家族 、一族を作り上げていった。私達はそれぞれ奥さん、姉、友人、上司、母と役割をもらい、その役は最後まで変わることなく続いた。
 毎日毎日が激しく、優しく、まさに人間の本質のぶつかり合いの日々となり、語り尽くせぬ膨大な1年となった。一年後その 正吉さんかなり衰弱して入院となった。皆でやるせない気持ちを共有し、街に出て居酒屋に集まることにした。それが3月12日の夜。その約束の朝8時30分、出勤時刻に訃報の連絡が入った。その夜、尽きぬ思いを暖め、店の最後の客になって外に出た。すると晴天だった空は 正吉さんを象徴するかのように雪となりシンシンと降り続いていた。みんなで舞う雪に向かって正吉さんの名前を呼んだ。
 それから毎年同じ日に同じ場所に4人で集まった。去年まで毎年、雪の夜の会合となった。やっぱり雪の姿になって正吉さんが来てくれていると思った。
 今年は一転おだやかで暖かい天気。雪の気配は全くない春そのものだった。”やっと天に召されたんだね”と私は感じた。いよいよ旅だった 正吉さんを送り、我々メンバーもそれぞれ新たなスタートなんだなと強く感慨にふける夜だった。タクシーで帰るのはもったいない気持ちがして私と美貴子さんは深夜の道を歩いて帰った。
 メンバーそれぞれがそれぞれの方向に進む今年、でもきっと来年も同じように会うと思う。 仕事場でも、なんら打ち合わせをしなくても、それぞれがそれぞれでいてうまく絡めた感触がある。年令に開きのある私までもが溶け込んで話せるこの空気。何ともいえない ”信頼関係 ”の心地よさがあった。それは 正吉さんという存在が作ってくれた関係だったと思う。
 今年の会合の前、待ち合わせまでの時間に物置の片づけをしようとダンボール箱を取り出したところ、偶然なことに中から出てきたのは”正吉”と書いたスリッパと軍手だった。この記念日に、たまたまこの箱を引っ張り出すという巡り合わせ。深い次元で深く出会うという人の不思議の体験をさせてもらったこのメンバーの集まりはそれぞれの人生の途上をつなぎつつ毎年続いていくと思う。
 
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