グループホームに勤務になって一年が過ぎ、コラさん
(仮名)ともいろいろあった。まだ関係や距離がとれなかったはじめの頃の夜勤で、お互い引けない感じになって私が「じゃもう話さない」と幕を下ろして立ち去ろうとする後ろ姿に向かって「バカ野郎」と怒声を投げたコラさん。あのときからコラさんと本当のつき合いが始まったように感じる。今もその事を思いだして語ると、コラさんも照れながら「始めてだ人にバカ野郎なんて言ったの、ごめんや。」と笑う。私も「あれから本音で話せるようになったような気がするよ。けんかするほど仲がいいってほんとだね」と返す。
今では、誰かと言い合いをしてすっきりしたい時に私を呼ぶような気がする。例のごとく呼び出しの鈴が鳴り、部屋を訪れると、いきなり突っかかってくるコラさん。
コラ)「一番心配なのは、モウゾウ(妄想のこと)を見ること。」
板)「(以前話していた)旦那さんの夢っか?」と返すと、怒り出す。
コラ)「意地悪だね〜。そりゃ〜旦那の夢も見るよ。」となんか勘違いしている?
板)「前話してくれたモウゾウの話だよ。」
コラ)「それはとっくに終わった。」とどうもお互い収まりつかない。
板)「お腹すいてる時に話す話じゃない、満腹にしてからくるから。」と私は幕を引く。
しかしまたすぐ鈴が鳴り、声がかかる。話はどうやら、「自分で自分のことが出来なくなってしまうのではないか、おかしくなってしまったのではないか、呆けてしまった、そうしたらここにいられなくなるのでは?」という悩みのようだ。
「何だコラさんそんなこと悩んでいたの、ここは、わからなくなっても居られるから大丈夫だよ。そのために私たちが居るんだから。」と話すと、「あや〜そうなの、いがったよろしく頼むよ。」と一応安心している。
以前は「だまされて連れてこられた。」「ここはひどいところだ。」と悪態のたれ放題だったが、最近は随分とかわいくなってしまった。悪態をついて、ここよりいいところがあるいう「夢」を持ち続けたほうがいいと思うのだが。
変わったといえば最近、あれほど執拗に通った病院受診も面倒だと言って行かなくなった。男性スタッフを一日ジャックし、病院の各科を巡るのが生き甲斐のようなところがあったのに。ここしばらく女性スタッフだけだったし、ひとりひとりがそれぞれじっくりと話も聞いて関係を作ってきたことも影響しているかも知れない。
新年度、新人スタッフも入って新たなスタートの4月「俺こっただから罰当たった〜。」とどんより落ち込んでいる。話を聞くと、「新しい人入ってきたから教えてあげてと言われたけど、わがね。」とどうやら慣れたスタッフに身体の介助をやって欲しいコラさん。
「今まで通り、やって欲しいことや困ることかはっきり言えばいいんだ。わがまま言ってください。今の若い人たちに、察してもらおうと思ってもそれは無理だよ。日本は察しの文化だったけど、戦後アメリカが入ってきて、今は個の文化・・・。」「わかった、気づいて欲しいと思うから苦しかったんだ、わがまま言います。」「そうだコラさん、今の世の中察してもらえないなら、きかなくなって世直ししよう。」「俺の肛門悪くなったのは、このためが〜。
」
俺は生まれついてのわがままと語るコラさん、これからも、悩んだり、喧嘩したり、笑ったり、怒ったりのありのままで、若い人のリアリティを育てていってくださいよろしくお願いします。
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