トップページ > あまのがわ通信 > スパークリングスパーク(その1)

スパークリングスパーク(その1)【2008.03】

宮澤 健
 

 自立支援法によって危機的な状況に追い込まれているのはどこの授産施設でも同じだと思われる。私は自立支援法の精神は、ひとりひとりの市民と地方行政が、障害者が生きることとその存在に対して意識し、自分自身の問題として考えることをうたっているものと理解しており、成熟した理想社会の実現に向かうべき法律だと信じている。
 ところが裏にある、社会保障費をどう削減するかという経済事情が優先してしまい、法の運用としては最低に近い形で動いてしまっているというのが現状ではなかろうか。経済基準でこれを運用しすぎるので、障害者を働かせてお金を自分で稼がせろと言わんばかりの無謀な形にもなってきたのではないかと思う。もちろん障害者にとって働ける場があるというのは良いことに違いないが、その確保をどうするかは相当の努力と繊細な対応が必要である。もともと福祉は所得の再分配という支え合いが原則と考えると、福祉の基本を逸脱する危惧まで感じてしまう。
 もう一つ大事なのは障害者の個性と適応の課題である。現代の日本人は社会に適応するために相当個性を抑圧していると思われる。個性は抹殺状態といえるぐらい厳しく追い込まれている現状を感じる。そうした状況下にあって、知的障害者の現場に携わる者の素直な実感からして、障害者は大いに個性を発揮して生きているというところに重大な価値があることを日々実感してきた。抹殺された個性を彼らは厳然と発揮して生きていてくれることが、我々個人と社会の救いなのではないかと感じてしまうのである。


 

 今回のファイナルシンポジュームを企画して、物心両面でお店を支え応援していただいた多くの方の代表としてどうしても登壇いただきたかった3人の女性がおられた。その中のお一人佐藤倫子弁護士は、「いろいろ社会的な問題を起こしてしまいやすいのは障害者がエネルギーを持って生きているという証だ」とそこに存在の力を認められている。そうした理解の上で事件に巻き込まれる障害者の支援に奔走されているのは、なにも語らなくとも通じる同志を直感してきた。
 堅苦しくやるのではなく、「居酒屋レストランらしく飲みながら気楽に語るなかで、熱のある議論を展開するのがいい」という提案も佐藤弁護士からだった。私もそれが悠和の杜らしいと即座に賛成した。そこで、倫子先生の好きなスパークリングワインを飲みながら白熱する会ということでスパークリングスパークと銘打ったのだった。
 この会を是非一般にも知ってもらい参加してもらいたいと新聞社に取材の申し入れをした。早速取材に来てくれて、大きな紙面で報道になったのだが、内容はシンポジュームの紹介ではなく、「自立支援の店頓挫」という情けないタイトルで載った。「赤字続き遂に閉店」。まさに敗北感漂う紙面だった。さらに「理事長は肩を落としている」と書いてある。肩を落としているどころか、ここからどうするか必死のファイナルイベントに挑戦しているのである。肩は怒っているぐらいだが、もともとの猫背が肩を落としているように見られたのかもしれない。


 

 赤字は確かに事実であるが、一年店を街に展開し活動した意味と成果は十分あったと考えている。店の評判は高かったし、閉店の決定には、やめないで是非続けるべきだとの声を、意外に多くの方からいただいた。応援をするからやめるなと言ってくださる方々も大勢あった。たくさんの方々がこの一年の我々の挑戦に注目し声援を送っていただいたことは感謝この上ない。
 これはプロセスであって、終わりではない。だから頓挫はいただけない。私のイメージとしては玉砕が近い。自立支援法を掲げて、突撃をしたつもりである。万歳を叫びながら総員海の底に壮烈な最期を遂げた感じにしてほしい。問題は靖国で会おうならず支援法で会おうだ。障害者の自立の支援とは何かをここから考えたい、また考えるだけの事がこの突撃にはあるはずなのだ。犬死などしたくない。精霊として蘇りたい。それが今の思いである。
 スパークリングスパークはどうスパークしたか次回に続きます。
 
 
〒025-0013 岩手県花巻市幸田4−116−1
TEL:0198-32-1788 FAX:0198-32-1757
HP:http://www.ginganosato.com/
E-mail: