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ジェンガで見た、生きる色あい【2008.02】

グループホーム第1 西川 光子
 

 ここの所、少々きつい課題を現場で抱えていて、いままでのようにゆとりで遊びたいのになぜか遊べない自分がいた。自分の感情を”動かすことなく地平線のように保つしかない”と無理にがんばり、「何があっても何事も”受けて立つしかない”のよね」とかつて姑さんに教えてもらった信念に自分を奮い立たせる日々が続いていた。
 そんなある日、乗りの良い好子さん、つき合いの良い良子さん(仮名)、研究肌のコメさん(仮名)、遊びなどやりそうにない桃子さん(仮名)がリビングに集まった。なぜかこのとき私の心が”わあ〜”と動いて、ジェンガやろう!!となった。 三本の同じ長さの木を交互に積み重ねてジェンガタワーをつくり、その状態から木を一本ずつタワーを倒さないように抜いていくゲーム。4人が、戦闘的に挑むタイプと、おっとりと自分の世界を楽しむタイプで、立ち組と座り組に分かれたところが面白く、私はこの時点でもうはしゃぎたくてたまらなくなった。
 「は〜 トカトカするじゃ〜 血圧上がるようだ。 これ!!手さ汗けえてるじゃ〜」と真剣そのもので、右に左に体を傾けのぞき込む立ち組。「フ〜ン どれにしようかしら・・・・あらダメですね〜 あらあらこれはいいのかしら・・・とればいいの?」と座って慎重な座り組。 手も出さず口も開かず体も動かさず立ってジ−と見つめる。それからあれこれと確かな所を探し当てるこれ又立ち組。そして次には「はい川ね」と三本そろっている所を取りなさいとばかりにコメントをくれる座り組。それぞれのやり方がまたまた私を楽しくさせてくれる。
 いよいよここ一本危ない!!場面。おそるおそる木に指がさしかかった。その瞬間、ガシャ〜ンと 大きな音がしてタワ−が崩れた。「キャ〜 ア〜ア アラ〜 ワ〜」と感嘆の声。声色はちがえど心は一つだったようで「またやろう」とすぐさま積み上げる。
 三度目の時、立ち組のひとりが一本引いたとき崩れたと思ったら、不思議な事に当然崩れ落ちる状態なのに途中で引っかかって止まったのだ。残念!!の「あー」が一変して違う「あー」の歓声に変わった。こうして盛り上がったところで終わりかと思っていたら、「積み上げればいい」と誰かが言い出して、「それはいい」とさらに盛り上がる。認知症のおばあちゃんたちの発想は自由自在で新しい世界を作り出してくる。
 「土台が大事 土台が大事」と基礎を決めようとする人。「どうしようかな どうしようかな」と何度も見回し、イメージを作って作業をしようとする人。考えず淡々と大胆な形に積み上げる人。ジェンガを逆に積み上げるゲームにしてしまった人たちは楽しげに、見事なオブジェを作り上げた。
 積み上げる作業にこんなにも個性が出て、しかもその個性が関わり合って作品ができあがったのは感動だった。しかも崩れた後の創造ということで深いものを感じた。日常のひとコマ。『遊び』がこんなにもみんなの心を動かし、一人一人の人生までも写し出してくるようなひとときだった。「 またやろうね」とそっとささやかれ、今まで見えなかったものがすこ〜し見えたようでちょっぴり私の張りつめた地平線が和らいだかな〜。
 
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