11月末、市の健康診断にハナさん(仮名)と息子さんとともに私も付き添って行った。ハナさんは92歳と高齢で、最近は下半身の関節痛がひどく、痛み止めを飲みながらの生活で、車椅子生活を送っている。会場に着くと、健常者向けの対応にしかなっていなくて、階段の登り降りがあり、立ったり座ったりが必要で、車いすのハナさんには厳しい環境だった。結局、血圧測定、採血、問診のみで、レントゲンや尿検査、身長体重は測定できずに帰ってくるしかなかった。下調べをしてなかったのはこちらの手落ちと反省せざるをえないが、踏んだり蹴ったりなのは、問診の人の不愉快な対応だった。
問診が始まると、「この方は認知症ありますか?」といきなりきた。会話に品位も気配りもない。「はい・・ありますけど」と私が答えると、それからは当のハナさんは全く無視で、「堅いものは食べられますか?」と私に聞く。そこに差別的雰囲気が満ちているので、内心ムカムカきて私は「本人に聞いてもらえませんか?」と言ってしまった。その人は不機嫌に顔をしかめながら、嫌々な感じでハナさんに質問をする。「三ヶ月以内で飲み込みが悪くなったと感じたことはありましたか?」嫌々聞くから余計聞こえにくい。ハナさんは「えっ」と聞き返。息子さんや私が、耳元で伝える。すると、ハナさんは彼女なりに一生懸命答えている。「ここ三ヶ月以内ですよ」と係の人が念を押す。ハナさんは少し考えていたが、突然大きな声で「この人、いっこ、なーに言ってるのがわがらねぇ」とあきらめたように言い放った。
係の人は、「これでは聞いても意味がない」と言い、私はそのまま、ムッとした表情でその場を後にしたが、帰りの車中でも怒りがおさまらなかった。息子さんも「もうちょっとうまく話せないのものかね」と悔しそうだった。
市の健康診断が車いすでは受けられない環境だけではなく、“認知症”は来なくていいと言われたようで理解しかねる。関係を無視して質問をしても、「この人いっこなにいってるかわからねぇ」のは当然だ。認知症や高齢者に対する現実を思わぬところで突きつけられて、ショックを受けた出来事だった。
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