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ハナさんの「生まれて初めてだよぉ?」【2008.01】

グループホーム第1 前川 紗智子
 

 ハナさん(仮名)のバイタルチェックは日々格闘だ。ハナさんも入居して1年以上が過ぎ、その格闘も大分慣れてきたが。「いでぇー!!」「苦しー!! 」と血圧測定のあのぎゅーっと締め付けるのが我慢できなくて「死んでしむぅ」と激しい抵抗がある。ぶちーっと血圧計のチューブをひっぱり取ってしまったことも、手が飛んできたり、つねられたり、痰を引っ掛けられたり…、こっちは“たかが血圧測定じゃないかハナさん”と思うが、ハナさんとしては“殺される”なのだから仕方が無い。
 実際、ハナさんはその手で洋裁の仕事をしながら、旦那さんを早くに亡くした後も女手ひとつで、3人の子どもさんを立派に育ててきたんだ。今となっては節が曲がってしまった手をまじまじと見つめながらなでていたハナさん。腕を締め付けられることで、その大事な手を壊してしまうという気持ちは、なんだか胸の奥がぎゅうっとなる思いだ。グループホームの暮らしの中では、こうして格闘があってもその格闘をまた違った角度で味わいなおせるだけのその人との関わりとゆとりがあり、私たち職員はそれに助けられている。
 結局、血圧測定だけを目当てにハナさんに向かっていっても門前払いをくらうのだ。ハナさん全体と出会ってからでなければ。だが、これが一歩外に出るとそうも行かない。とくに病院では悔しい思いをして帰ってくることが多いのだ…。
 ところが、先日、病院で、素敵な看護師さんに出会った。血圧測定か…、ハナさん今日はどうかなと、どきどきの私。ところが迎え入れてくれた看護師さんは「ハナさん」と語りかけ、ハナさんの両手をとって「わぁ、ハナさんの手、冷たいねぇ、冷たくて気持ちいい。」ハナさんも「あやぁ、おめさんの手ぬげぇごどぉ。」と、看護師さんの目を見つめにっこり。迎え入れられて、心も体も暖まる、問題の血圧はというと本当に測ったのかと思うくらい何事も無くあっさりと終わった。
 その後、ハナさんが一言、「生まれで初めてだよぉ?ありがとうございます。」看護師さんは「血圧測ったことないの?まさかぁ。」と笑っていたが、私は本当に生まれて初めての暖かい病院受診、血圧測定だったはずと深く納得していた。血圧測定で、こんないい出会い方をしてくれたのはあなたが生まれて初めて、と私も思った。
 
 
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